メガラニカ帝国までの道中、ベルゼフリートと儀装馬車で同席したのは初日の午前中だけだった。
黒衣の花嫁衣装を着ていたセラフィーナは別の馬車に乗せられた。普通の旅装に着替える許しをもらった。豊かな爆乳と巨尻を通せる特注サイズの装束で、身体を暖める。
(乳房が張っているわ。ちょっとだけ痛みがある⋯⋯)
淫事の最中、ベルゼフリートは手荒に乳房を揉む。そのせいで、普段より乳房が硬くなっている気がした。
セラフィーナが愛用しているブラジャーのサイズは、料理用ボウルが二つ並んでいると見間違えてしまうほど巨大だ。それがいつもよりキツく感じられた。
「ごめんなさい、ロレンシア。誉れ高き近衛騎士である貴方に小間使いの仕事をさせてしまって……」
背中の金具を止めるのも一苦労だった。着替えの手伝いだけでなく、セラフィーナの肌に付着していた淫事の痕跡を拭き取ってもらった。
ロレンシアに不満はない。見習い騎士だった頃、鍛錬の一環で雑用仕事をこなしていた。この程度のは手慣れていた。
「お気になさらず⋯⋯」
主人の役に立っているという充足感が、ロレンシアの傷ついた精神を癒やしてくれた。
「私はセラフィーナ陛下の従者です」
「いけないわ。ロレンシア。私を陛下と呼んでは……」
「そうでした。失礼ながら今後はセラフィーナ様と呼ばせていただきます」
忌々しいがメガラニカ帝国で暮らしていくのなら、帝国のルールに従うほかない。ハスキーが警告していたように、従者の愚かな振るまいで、主人の立場は危うくなる。
「セラフィーナ様。お身体の調子はいかがですか?」
「下腹部の圧迫するような膨満感が治まりましたわ。やっと子宮の中に入っていた……その……あの子の精液が空っぽになったみたい……」
膣穴から漏れてくる精液は下着を汚していた。
(子宮が軽い。精子を掻き出したけれど、まだ内側にこびり付いてるのが分かるわ⋯⋯)
臍下に膨らみができるほどの精液量だった。夫のガイゼフは掌に収まる程度の量しか射精しなかったが、それが少量だったとは思わない。
(お腹の膨れが消えて良かった。⋯⋯考えたくないけれど、まるで妊娠したかのようだったわ。⋯⋯でも、いずれは⋯⋯あんな量の子胤を注がれ続ければ⋯⋯きっと孕んでしまう)
気恥ずかしさを感じながらも、セラフィーナはロレンシアに訊ねてみた。すると、「あの淫乱皇帝が異常なだけです。レンソンだってあんな量は出していませんでした」と答えてくれた。
子宮に溜まった精液を抜いていたとき、ロレンシアは驚愕していた。
(メガラニカ帝国の男子は⋯⋯すごい性豪なのかしら……? それともあの子が特別⋯⋯?)
陰茎の形からして、夫のものとは異なった。
雄馬のペニスを移植したかのような極太の男根。
ベルゼフリートは厚手の腰巻きを愛用している。おそらく巨根が浮き出るのを嫌っているからだ。そうに違いないとセラフィーナは推察する。
「ロレンシアはどう? 私のことばかり気にかけているけれど、貴女の身体は大丈夫なの……?」
「鍛えているから平気です。おかしな薬を飲まされて、変な身体にされちゃいましたけど、特に変わった感じはありません」
空元気を見せるロレンシアは微笑んだ。
「そう。ロレンシア⋯⋯。無理をしてはいけないわ」
セラフィーナはそれ以上は踏み込まなかった。
ロレンシアはレンソンとの間に出来た胎児を流産している。辛い出来事を掘り返すつもりはなかった。
「私は産まれて初めてアルテナ王国を離れるわ。幼かった頃、国境のイリヒム要塞には、視察で何度か訪れたけれど……」
セラフィーナがイリヒム要塞を訪れたのは、三十年以上も昔の出来事だ。教育係のリンジーは隣国を指差し、メガラニカ帝国は呪われた国だと説明してくれた。
「四歳か五歳くらいだったかしら……? もうすっかり忘れていたわ」
見張り台から眺めた帝国領は不気味だった。
イリヒム要塞が建造された理由は、帝国から流れてくる難民や魑魅魍魎の侵入を防ぐためだったと聞いている。
「あれが天空城アースガルズ⋯⋯? 島が空に浮かんでいる。とてもこの世の光景とは思えませんわ」
セラフィーナに見えいる光景は三十年前とは違う。皇帝の帰還に合わせ、イヒリム要塞の近郊に天空城アースガルズが停泊していた。
最初に見たとき、セラフィーナとロレンシアは開いた口がふさがらなかった。
天空城アースガルズは、天に浮かぶ巨大な浮遊島だ。
空中要塞。天空城。さまざま異名を持つ。端的に言い表せば、皇帝の住まうアースガルズは、大空を自由自在に移動する巨大建造物である。
地上からはその全体像を把握できない。漆黒の金属もしくは岩石で底面が覆われている。白金色の円環が島の全周を囲っていた。高低差があるため、流れ落ちる水は、地上に到達せず霧散して消えていった。
(こんな代物を運用できる大国家が、かつては滅びかけていたなんて……)
王都ムーンホワイトを出立してから5日が過ぎた。ついに女王セラフィーナと女騎士ロレンシアが、皇帝ベルゼフリートの後宮へ入内する。
もはや後戻りはできない。セラフィーナは正式にハーレムの一員となる。愛妾の立場に堕ちるのだ。帝国にいる間、セラフィーナは女王としては扱われない。
従者となったロレンシアも同じだ。ベルゼフリートが望むのなら、夜伽の相手を務めねばならない。
「セラフィーナ様。お聞きしてもよろしいですか……?」
「何を聞きたいのか分かっていますわ。きっとロレンシアが聞きたいのは子供のことでしょう?」
セラフィーナは子宮に手をあてる。
「皇帝ベルゼフリートの子胤で、私が産む赤ちゃん……」
「セラフィーナ様⋯⋯! いざとなれば、私は手を汚せます。赤子に罪はないかもしれません。しかし、生まれるべきでない命がこの世にはあります! メガラニカ皇帝とアルテナ王家の血を引く赤子は⋯⋯、多くの人々を不幸にします」
「いけないわ。ロレンシア……」
「ですが、セラフィーナ様⋯⋯!」
「そんな汚れ仕事を貴方にさせたくないわ」
セラフィーナとベルゼフリートの赤子を始末する。ロレンシアは忠誠心で申し出た。
産まれてくるのは、憎きメガラニカ皇帝の血を引いているとしても、アルテナ王家の子供だ。
セラフィーナは夫へのやましさから唇を噛む。しかし、不名誉な赤子殺しをロレンシアにさせたくなかった。
「私は今まで自分ばかりを考えて生きてきたわ。本当に自分勝手な女⋯⋯。けれど、そんな愚かな私にさえ、忠誠を尽くしている者達がいるわ。そのために私は何でもやるわ……。アルテナ王国を守るために⋯⋯!」
「セラフィーナ様……」
「国讐の子胤で孕んだ子だろうと私は産む。アルテナ王国を守るために、皇帝ベルゼフリートの子供が必要なら、産まなければいけないわ。愛する夫と娘を……裏切る行為になるとしても……っ!」
卵巣から排出された卵子に精子が結合して受精卵となる。しかし、胎児の素である受精卵が生成されても、まだ妊娠にはいたらない。
セラフィーナの膣内に射精されたベルゼフリートの精子は子宮、卵管、卵管膨大部へと至り、卵子との融合を成した。
結びついた受精卵は、精子が進んだ道筋を逆走する。
ゆっくりと卵管を遡り、子宮内腔へと向かう。
胎に辿り着くまでの道中、ベルゼフリートとセラフィーナの遺伝子は繫がり、螺旋状に組み合わさる。育まれた受精卵は細胞分裂を繰り返し、子宮の内膜に到着した。
——とぅくん♥︎
わずか13歳の幼き皇帝に子胤を注がれてから約8日。受精卵が子宮に辿り着き、無事に着床を遂げた。36歳の女王は受胎し、再び母親となろうとしていた。