真夜中、私は重要な話があると言って、夫の広輔くんをリビングルームに呼び出した。
広輔くんと夫婦の話し合いをする前に、私は子供部屋を覗いて、息子の真広が寝息を立てていることを確認していた。これから話す夫婦の会話は、絶対に聞かせたくない内容だった。
「こんな夜中にどうしたんだ? 大事な話って何だよ。悪いが明日は早番なんだ。手短に頼む。ふぁあ……」
広輔くんは郵便局で働いている。3カ月ほど前、逢隈村に家族で引っ越してきたのも、広輔くんの転勤についてきたからだ。
私は深く息を吐いて、精神を落ち着かせる。白状してしまったら、もう後戻りはできない。
広輔くんの返答次第では、今夜にも夫婦関係は解消となる。離婚したら清澄の名字を名乗れなくなってしまう。明日からは清澄真理亜ではなくなるのだ。
「妊娠してるの……私……。お腹の中に赤ちゃんがいるの……」
私は妊娠していることを告白した。6年前に第一子を授かったときとは、真逆の雰囲気だった。許されたいわけじゃないけれど、私は自らの罪を懺悔する。
「最近、生理がこないから妊娠検査薬で調べたら陽性だった。それで……村の診療所でちゃんと調べてもらったら、妊娠3カ月だって言われちゃった……」
「ああ。そう……なのか……」
夫の反応は極めて淡泊だった。驚きよりも呆れてしまっているのかもしれない。
「ごめんなさい……。こんな形で伝えているから、もう分かってしまったと思うけれど、ずっと浮気してたの」
広輔くんは何も言ってくれない。冷めた表情で私のことを見ている。
「お腹の赤ちゃんは、広輔くんの子供じゃないの。本当に……っ! 本当にごめんなさい……!」
私は広輔くんに頭を下げて謝罪する。指先が震えている。とても目を合わせることはできなかった。
広輔くんと夫婦になって7年。息子の真広は小学1年生となった。義務教育が始まり、やっと手が掛からなくなってきたけれど、まだまだ子育ての半ばだった。
最近、私たちの間に夫婦の営みはなかった。懐妊の事実は、私の浮気を証明してしまう。けれど、こうして自分の過ちを告白しているのは、私自身が罪悪感に堪えられなくなったからだ。
「子供の父親は誰なんだ?」
「ごめんなさい。言えまない……」
「そうか。言えない相手なんだな」
「自分でもバカなことを言ってるって思うわ……! でも、相手に迷惑がかかってしまうから……。ごめんなさい……っ!!」
私は大粒の涙を溢す。この期に及んで、浮気相手すら言えない。こんなの殴られても仕方がない。それだっていうのに、広輔くんは声すら荒げず、これからのことについて質問をしてきた。
「真理亜はお腹の子をどうしたい? 産む気なのか?」
「自分勝手なことだって分かっているわ。それでも、どうしてもこの子を産みたいの! ……赤ちゃんを堕ろしたくない」
「要するに、真理亜だけじゃなくて、赤ちゃんの父親も産むのには賛成ってことなんだな」
「時間はかかるけど、ちゃんと慰謝料を払います。真広の養育権も争いません……。だから……ごめんなさい……! 離婚させてください!!」
署名済みの離婚届を広輔くんに差し出した。この紙切れに広輔くんが署名して、役所に提出すれば、私たちの夫婦関係は解消される。
「分かった……。でも、しばらく時間がほしい。離婚届は俺が預かっておく。真広には教えたくない。今夜の話はまだ秘密だ。終わるまでは、悟られないように普通に過ごしてほしい」
「分かりました……」
「それじゃ、明日は早番だから俺は寝るよ。自分の部屋で寝てるから、これから寝室は自由に使ってくれ」
広輔くんは冷静だった。激怒するわけでも、悲しむわけでもない。だけど、夫を裏切った妻に対して、嫌悪感を抱いているはずだ。
きっと離婚を即座に決断しない理由も、私への未練や愛着なんかではない。息子の真広や世間体を考えてのことだ。
私が浮気をしていたのは事実だけど、けして広輔くんを嫌っていたわけじゃない。ほんの少し道を過って、そのまま崖下まで転落してしまった気分だ。言い訳がましく聞こえるけれど、そうとしか言えない。
口に出しては言えないけど、私は広輔くんを夫として愛している。
息子の真広とも離ればなれになりたくない。それでも離婚を申し出たのは、ちゃんと責任をとろうと思ったからだ。
(私って本当に馬鹿……。まわりになんて説明しよう。お父さんやお母さん……結婚式に出てくれた友達にも……。どうして……なんで……こんなことをしちゃったの……)
両目から涙が溢れ出る。お腹に宿った堕ろして、浮気していた事実を隠すこともできた。でも、私には赤ちゃんを殺す勇気がなかった。
秘密をずっと抱えることも無理だった。私を愛している広輔くんを裏切り続けるなんてできない。私はとても弱くて薄汚い女だ。だから、流されて浮気して、こんなことになってしまうんだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい。こんなお母さんで。でも、ちゃんと産んであげるから……」
残された私は、お腹の子供に語りかける。誰からも祝福されない子供だとしても、母親である私だけは、この子を守らなければいけない。
結果として、自分の築いた家庭を崩壊させることになっても、この子を作ってしまった責任はとるべきだと、私は自分に言い聞かせる。
——裏切りの切っ掛け。それは本当に些細な出来事から始まった。
◇ ◇ ◇
——数ヶ月前の私は心から広輔くんを愛していた。この日の夜、自分が愚かな過ちを犯すなどと考えてもいなかった。
私たち家族が引っ越してきた逢隈村は、東北地方にある田舎の寒村。人口は千人にも満たない。夫である広輔くんの転勤場所でなければ、絶対に引っ越してくることはなかったと思う。
幼少期から都会で育った私にとって、逢隈村はとても不便な場所だった。自家用車がなければ、スーパーへの買い出しにさえも不自由する。身分証としてしか活用していなかった自動車免許を、引っ越してからは本来の用途で使用するようになった。
「ねえ。お母さん。お家で犬を飼おうよ、犬!」
「ペットはダメよ。私たちが暮らしてる家は借家なの。郵便局の紹介で借りている家なんだから、ペットは飼っちゃいけないの。面倒だって見られないでしょ」
「庭が広いんだから飼えばいいでしょ! ちゃんと僕が世話できるよ! 運動だって好きだから、散歩だって毎日する!」
「絶対にダメ。そんなこといって、どうせお母さんが面倒みることになるんだから。それより、新しい小学校には馴染めたの?」
「うん。まあ、そこそこね。東京に比べてクラスの人数が少ないから、同級生の名前は覚えたよ」
真広は言葉を濁す。自分でも意地悪な質問をしたと思った。
逢隈村に引っ越してきて、ほんの少ししか経っていない。どんなに私の息子が社交的でも、クラスメイトと打ち解けるには時間がかかるはずだ。
「真理亜、そろそろ準備はいいか? 玄関に大澤さんが迎えに来てるんだ。もう車が停まってるぞ」
「え? お母さん、どこかに出かけるの? 一人だけずるい!」
「ずるくなんてないわ。これからお母さんはお仕事なの。今日から家政婦のアルバイトを始めるから、夕食はお父さんと二人で食べてね。出かける前に準備はしておくから」
今までは広輔くんの収入だけで暮らしてきた。けれど、真広が小学校に入学して、これからは学費が沢山必要になってくる。
このご時世、いつまでも専業主婦ではいられない。どこかに働き口がないかと探していた矢先、家政婦のアルバイトを紹介された。
「妻をよろしくお願いします。大澤さん……」
広輔くんは深々と頭を下げる。車の運転席に座っているのは、広輔くんが働いている郵便局の局長さんだ。初老の男性で、ブルドッグみたいな顔している。ちょっと訛りが強いものの、会話が通じないほどではない。
「何も心配はいらねえよ。奥さんが道に迷うといけんから、今日は送り迎えしちゃるよ」
家政婦のアルバイトを教えてくれたのも大澤さんだった。郵便局の掲示板に貼り付ける求人広告の内容を事前に伝えてくれたのだ。本当はいけないことだけど、縁故で即採用が決まった。
「鬼塚様の館は、村外れのちょっと変わったところにあんべさ。覚えちまえば、車で20分ぐらいで行ける場所にあんだけどもな」
「よろしくお願いします」
明日からは私が1人で運転して、バイト先まで辿り着かないといけない。記憶力はあまりよくないほうなので、道をしっかり覚えるように頑張るつもりだ。
「念のためにぃな、シートベルトを頼むべ。なんせね、年寄りの運転だかんねえ」
後部座席に乗り込んだ私は、大澤さんに微笑みかける。相手は夫の上司だ。しかも、大澤さんが紹介してくれた家政婦のアルバイトは、田舎では信じられない破格の報酬だった。
日給は2万円、18時から翌朝までの夜間バイトとなっている。大澤さんが教えてくれなかったら、私以外の人がすぐに飛び付いて働き口を取られていたに違いない。
(広輔くんや真広とは反対の生活スケジュールになってしまうけど、日給2万円は美味しすぎるわ。だって週5で働いたら、広輔くんの手取りを超えちゃうじゃない)
広輔くんは不安そうな顔を浮かべていた。私が大澤さんに失礼なことをすると思っているのかもしれない。
「真理亜……。えっと、頑張ってくれ……。何かあったり無理そうなら……その……」
「大丈夫。広輔くんは心配しすぎだよ」
私は笑顔を作って、窓越しに手を振る。
(家政婦のバイトだって主婦業の延長でしょ。愛嬌を振りまいて、雇い主に気に入られちゃうんだから!)
容姿には自信がある。小学校や中学校のころはコンプレックスだった大きなオッパイも、高校生になるころには、とてつもなく強力な武器だと私は知っている。
◇ ◇ ◇
大澤さんの車に乗って、私はアルバイト先の鬼塚家に向かう。その道中、大澤さんが話しかけてくる。
「真理亜さんは、どこの人なんだべ?」
「郷土は東京ですよ。生まれも育ちも東京なんです」
「おおぉ。東京で生まれたんかぁ。東京天空ツリーだとか、でっけえ電波塔もあるんだろぉ。さぞかし、人が多くて暮らしが大変だったんでねえか。テレビで見たことあるっぺ。ラッシュタワーだとか、とんでもねえ人混みがあんだってなぁ」
(あはは……。通勤電車のラッシュアワーのことかな? 東京スカイツリーも微妙に間違ってるし……)
大澤さんの車は、アスファルトで固められた道路から、未舗装の林道に入っていった。等間隔で木製の電柱が並び、弱々しい電灯が夜道を照らす。
「本当にこっちで道はあってるんですか?」
完全に山林の中だった。村の外れも外れ。畑すら見当たらず、この先に人家があるとは思えなかった。
「あってるよぉ。こっから先は一本道だから、この林道さえ見つけちまえば、もう迷わんよ」
「そ、そうなんですか。この先には鬼塚さんのお家しかないんですか?」
「そうだよぉ。ここら一帯はぜーんぶ、鬼塚様の土地なんだべ。大昔から逢隈村の土地を持ってた大地主なんだぁ」
当然のことながら、携帯電話は圏外になっていた。
最初くらい広輔くんにも来てもらえばよかったと後悔した。大澤さんを怪しんでいるわけではないけれど、ちょっとだけ身構えてしまう。
何かあったとしても、助けを呼べる状況にはない。そんなことは絶対にないとは思いつつも、ちょっとだけ恐くなった。
「ここだ。もう見えてきた。この先にある立派な館。あそこに鬼塚様が住んでるんだ」
大澤さんの言葉に嘘はなかった。林道を越えた先にポツンと西洋風の館があった。
「鬼塚様のお館に入るときは、太陽が沈んでねえと絶対に駄目だ。これだけは絶対に、守ってくれねえと困る」
「わ、わかりました。夜になってから入るんですね?」
「んじゃ。おいらは明日の朝、また迎えに来るから、鬼塚様によろしく伝えてくんろ。とっても偉い方だから、無礼があっちゃいけねえんだぁ」
「は、はい……」
大澤さんは私を館の前で降ろすと、そのまま戻ってしまった。あっという間に自動車の光りは山林の中に消えていった。
「どうしよ……。ちょっと緊張してきちゃった。って、今さらイヤになったから帰るなんてありえないよね……。あーもう! ここまできたら腹を括るしかないわ!」
冷たい小雨が降ってきて、いつまでも外で立ち尽くしていることもできなくなる。一人残された私は、不気味な空気を漂わせる洋館に足を踏み入れた。
「とってもホラーな建物……。遊園地のお化け屋敷みたい。幽霊とか出てきそう」
発展に取り残された逢隈村は古民家が多い。そのどれもが純和風。ところが鬼塚さんの住む大きな館は、不釣り合いな西洋風の外観だ。よほどの物好きで、お金を持て余してなければ、こんな辺鄙なところに家は建てない。
「お……、おじゃましまーす……! あのー。ごめんなさーい! 家政婦のアルバイトで雇われた清澄真理亜と申します」
インターホンなんて当然なかったので、私は館に入るなり大きめな声で呼びかけた。玄関の内装は質素ながらも高級感がある。ちょっと埃っぽいけれど、人の手入れは入っているみたい。
お化け屋敷になっているのではないかとビクビクしていたけど、人間が住んでいる痕跡はあった。
「こんばんば〜。あのー! どなたかいませんか?」
玄関の扉に鍵はかけられていなかったし、灯りもついているので留守ということはないはず。あたりを見渡すと置き手紙が絨毯の上に落ちていた。
「もしかして、これって私に宛てた手紙かしら?」
拾い上げて、内容を確認してみる。手紙の書き主はこの館の主人で、やはり私に宛てたメッセージだった。
————清澄真理亜さんへ。
————鬼塚家の館にようこそ。
————使用人として働くにあたり、真理亜さんに守っていただきたい規則があります。
————まず、この手紙の指示通りに動いてください。
子供のころに読んだ童話『注文の多い料理店』を思い出す。私は訝しみつつも手紙を読み、館の主人から与えられた指示に従うことにした。
————玄関から廊下をまっすぐ進むと、赤色のドアがあります。そこが使用人の部屋となっています。
「まずは使用人の部屋で給仕服を着替えるのね。それで着替える前に必ず、部屋にあるシャワー室で身体を清めること……? もしかしなくても、これって私を食べる下準備じゃないわよね。あっははは……」
使用人の部屋はすぐに見つかった。室内の机に給仕服の着替えが用意されていた。網タイツとソックス、革靴まで置いてある。
「給仕服って、このメイド服のこと? まさか二十代後半になって、こんな可愛い服を着ることになるなんて……。こんなのを着るのは高校の文化祭以来だわ」
コスプレ喫茶で使われているような安っぽいメイド服じゃない。それなりのお金をかけて、高級な布生地を使っている。ふわふわの手触りが心地いい。
次に私は、部屋備え付けのシャワー室を確認する。洗面台が併設してあって、そこにはバスタオルがあった。
「シャワーを浴びるのも、着替えるのもいいけど、鍵はちゃんと閉まるのかしら……?」
初めて訪れた場所で、裸になるのは抵抗を覚える。私だってそこまで不用心じゃない。私は廊下と繋がる赤いドアを確認しにいく。
「ふう……、よかった。ちゃんと鍵がかかる。しかも、ホテルみたいにチェーンまである。これなら外から誰も外から入ってこられないわ」
内側から施錠できることを確認してから、私は使用人室のシャワーを使うことにする。
「昭和にタイムスリップしたみたいな造りだわ。床のタイルもレトロで雰囲気ある……」
シャワーの水量はまずまず。二つあるバルブのうち、一つで水量、もう一つで温度を調整できる。加減は難しかったが、ちゃんと暖かいお湯が出てくれた。
「洗面所にドライヤーは無さそうだったし、身体だけでいいわよね」
私は髪の毛を濡らさないように、身体をお湯で洗い流した。
バストが大きいのでブラジャーを付けてると、胸の谷間がよく汗ばむ。オッパイの上に本を置けたり、いろいろと便利なのだけど、不便なところも沢山あった。肩凝りに悩まされるし、着ることができる服のサイズも限定される。
胸回りが足りなくて、好きなブランドの服を泣く泣く諦めるのは日常茶飯事。あとデザインによっては、着太りしてしまうので、買ったのに着なくなることも……。
「働いたあとにもシャワーを使わせてくれるのかしら? 仕事終わりに浴びてもいいなら最高の職場かも……」
シャワーを浴び終えた私はバスタオルで、濡れた身体を拭き、ブラジャーとショーツを履き直した。
用意されていた白エプロンの給仕服は、不可思議なことに私の体型にピッタリだった。用意されたストッキングと靴下、革靴のサイズもだ。事前に私の寸法を測っていたかのようにフィットする。
「あれ? なんでドライヤーがあるの? さっき見当たらなかった……」
給仕服の見栄えを洗面台の鏡で確かめているときだった。シャワーを浴びる前は見つからなかったドライヤーが立てかけてあった。
(それも、これって家にあるのと同じドライヤーだわ)
シャワーを浴びているときの独り言を思い出す。でも、人の気配なんて感じなかった。不気味に思った私は、赤いドアの施錠を確認する。
(……扉の鍵はかかってる。誰かが入ってきたなら、鈍い私でも絶対に気付くはずよ。きっと私がよく見てなくて、最初からあったドライヤーを見過ごしただけ。うん、きっとそうに違いない)
私は館の主人からの手紙を読み返す。
——着替えを終えたら、厨房に向かってください。使用人の部屋を出て右手に進むと、鉄製の扉があります。そこが厨房です。
もやもやとした疑念を抱えつつも、私は手紙の指示に従って、1階の厨房へと向かうことにした。
◇ ◇ ◇
新品のメイド服で身を飾り、年季を感じさせる古めかしい洋館の廊下を進んでいく。胸回りが少し緩めで、歩いていると乳房が揺れ動いてしまう。
(見取り図がないと迷ってしまいそう。人が暮らしているとは思うのだけど、さっきから誰とも会わない……)
建物は想像以上に広く、入り組んでいた。そして、やはりというべきなのか、厨房にも人の姿はなかった。
「戸棚に置いてある赤ワインのボトル、食器棚から底に五芒星が描かれたグラスを二つ。冷蔵庫に入っているチーズをお皿に切り分けて、最上階の寝室に運んでくること」
探すのは簡単だった。赤ワインのボトルは一つしかなく、食器棚には同じグラスが何個もあった。
「日本のワインじゃないわ。どこの国のワインなのかしら?」
コンビニやスーパーでは見かけたことがない銘柄だ。ラベルに書いてある文字はラテン語……? ちょっと自信がない。でも、少なくとも英語ではないみたい。
一口サイズにチーズを切り分け、丸皿に盛り付ける。鉄製のトレイにフォークとグラス、赤ワインのボトルを置く。
転んで台無しにしないように注意をしながら、洋館の主が待つ3階の寝室へと歩いていった。
——3階に上る階段は、厨房を出て正面に進んだ先にあります。2階には玄関ホールの階段からも上がれますが、3階まで続いている階段は中央にある階段だけです。
屋敷は3階建て。1階に使用人の部屋と厨房、2階は何があるか分からないけれど、手紙に挟まった見取り図を見る限り、客室がいくつかあるみたいだった。
そして、3階のフロアは、全域が主人のプライベートルームとなっているらしい。
3階の階段を上がるとすぐに扉があった。
「家政婦のバイトで来た清澄真理亜です。鬼塚さん。お部屋に入ってよろしいでしょうか?」
私はトレイを上乳で支えつつ、自由になった右腕でノックした。
「どうぞ。ドアに鍵はかかってないよ」
室内から男性の声が聞こえてくる。予想に反し、老人のしゃがれた声ではない。とても若々しい声だった。入室の許しをもらった私はドアノブを捻った。
「初めまして、真理亜さん。俺は鬼塚夜叉丸。この洋館の主人だ」
そこにいたのは二十代前半の青年だった。顔色は白っぽく、体型はスレンダーというよりも痩せすぎている。健康上の問題を抱えていることを覗わせる外見だった。
(顔立ちは整っているけれど、なんだか今にも倒れそうに見えちゃうわ)
身嗜みは気にかけていないらしい。髭はそっているけれど、黒髪は肩まで無造作に伸ばしている。
私よりも背丈は低い。私は高身長というわけでもないので、鬼塚さんが小柄なのだ。言い方は悪いけれど、この人には発育不良という言葉がよく似合う。
「手紙で指示を出すなんて、回りくどいことして申し訳ないね。見ての通り、俺はあまり身体が頑丈じゃないんだ。不相応に広いこの館で不便な思いをしながら暮らしている。大澤さんから仕事の内容は聞いている?」
「はい。掃除や洗濯などの家政婦のバイトだと聞いてます」
「うん。だいたいそんな感じ。俺は生まれつき皮膚が弱いんだ。あまり強い光を浴びられない。それと、雑菌の多い外の空気もだめなんだ」
部屋にはいくつか窓がある。だけど、長らくカーテンで閉ざしているみたいだ。だけど、室内の空気は淀んでいなかった。何かしらの方法で換気はしているのだと思う。
「来て早々に身体を洗えだの、服を着替えろだの、変な指示を与えて申し訳なかった。ちゃんとした理由はあるんだ。この部屋に雑菌を持ち込みたくない。逢隈村は空気が澄んでいるから、他の場所よりは楽なんだけどね」
身体を洗うように命じられた理由を説明される。バイ菌を持ち込まないためだと言われると、絶対に着替えるように指示されたことも納得がいった。
「鬼塚さんは、このお一人で暮らしているのですか?」
「まあね……。親族はいるんだけど、愛想を尽かされてしまってた」
「す、すいません。出過ぎた質問をしてしまいました」
「構わないよ。一人の方が楽なときもある。それと、俺のことは下の名前で呼んでほしい。名字は好きじゃないんだ。この家に縛り付けられているような気がしてしまうから」
夜叉丸さんは、引き籠もりを満喫しているわけでもなさそうだった。むしろ外に出たがってるのかもしれない。
「分かりました。今後は夜叉丸さんとお呼びしますね。私の他に雇われている方は?」
「前に雇っていた人は、高齢になったから退職してしまったんだ。食材や衣類は、大澤さんに頼んで郵便局の人が運んできている。真理亜さんの旦那さんも郵便局で働しているらしいね」
「はい。夫の広輔は、大澤さんの下で働いています」
「逢隈村の郵便局には感謝しているよ。配達員がいないと、俺はこの洋館で飢え死にしてしまう。そのかわり、郵便局に沢山のお金を預けているけどさ。最近は郵便局も稼ぎを探さないといけないとか、大変な時代だ」
夜叉丸さんに促されて、私は運んできたワイングラスに赤ワインを注ぐ。コルク抜きを持ってくるのを忘れてしまったけど、夜叉丸さんが机の引き出しから出してくれた。
「真理亜さんもよかったらどうかな? 一般では流通していない珍しい赤ワインなんだ。たった一人で飲み干してしまうのは忍びない」
雇い主にそこまで言われてしまったら、断るのも難しい。アルコールが苦手だと言い張って、断ってしまおうとも考えた。けれど、実をいえば私は大の酒好きだった。
嘘がばれたときに気不味い思いをするし、ほんのちょっとくらいなら酔うこともないはずだ。
「お言葉に甘えて一口だけいただこうかしら……。これはどこの国のお酒なのですか?」
「イスラエルのヒンノム谷で作っている赤ワインだよ。一つ一つを人間で手作りしている。俺の一家と古くから交流のある職人さんが、毎年送ってきてくれる」
「職人のお手製なんですね。中東のお酒は初めてだから楽しみです」
「この1942年製は、当たり年のなかでも格別の出来栄えだよ。『アシュケナジム』と命名された最高傑作なんだ。真理亜さんのお口に合うと嬉しい」
豊潤な香りを醸し出す赤ワイン。グラスには一口分しか注いでいないのに、揮発した酒精だけで酔ってしまいそうになる。
(……お、美味しいっ……! 舌に絡み付く厚みのある舌触り。安っぽい赤ワイン特有の渋みはまったくない! 甘酸っぱい上品な味が口の中に広がるわ……!)
お金持ちだけが飲める最上級のお酒。たった一口だけと言ったくせに、もっともっとほしくなった。アルコール分は高いらしく、身体はあっというまに熱を帯びた。
「今夜は真理亜さんの歓迎会みたいなものだ。遠慮せずにどうぞ。ストックはまだある」
夜叉丸さんは空になった私のグラスに赤ワインを注いでくれる。赤いワインで満杯になったグラスを前に、私は自制心を失ってしまった。
あと一杯だけ……そう自分に言い聞かせて、私はグラスに口を付けた。お酒は好きだったけれど、学生時代も含めて酔い潰れたことは一度もない。それなのに、たった一口で私は酔っ払ってしまった。
「あははははは。このお酒すっごく美味しいです。こんなに美味しいお酒は生まれて初めてです」
「気に入っていただけて、俺も本当に嬉しい。その赤ワインが口に合うというのなら、真理亜さんとはこれからも上手く付き合っていけそうだ。ぜひとも話し相手になってほしい。さあ、さあ、遠慮せずどうぞ、もう一杯」
「あははっ! ありがとうございますぅ。えーとぉ、夜叉丸さんは、ずうぅっと1人で……寂しくなかったのかしらぁ? ただでさえ、逢隈村は何にもない田舎でしょ〜?」
悪い酔いしていなかったら、初対面の人にこんな口調で質問を投げ掛けたりしない。でも、酔っ払い特有のテンションで私は夜叉丸さんに話しかける。
「最近は友人が訪ねてきてくれるようになったから、そこまで寂しくもない。俺がこの館を出ることができたら、外で一緒に過ごせるのに……。それだけが今の悩みだよ」
その後も進められるがまま、何杯もグラスに赤ワインを注いでもらった。記憶は混濁し、自分が何をしているのかさえも分からなくなっていった。
火照った身体が暑苦しくて、給仕服の白エプロンを脱ぐ。そして胸元のボタンを外したことまでは覚えている。
——その夜、泥酔した私は、取り返しのつかない過ちを犯してしまう。
◇ ◇ ◇
ベッドに押し倒された私は、身体を仰け反らせて股間を差し出す。一糸纏わぬ裸体。恥部すらも隠さず、深酔いしている私は正常位で交わる。
「んんぁっ♥ んぁは♥ んぃ♥ 子宮がすごくきもぢいいぃ♥ オマンコがオチンポでぐちゃぐちゃになっちゃう♥ もっときてぇっ♥ もっと私の奥まで入ってきてぇ……♥」
振り下ろされる肉棒に膣口を押しつける。相手の身体を抱きしめ、両足で腰を挟み込む。子宮のなかに濃厚な子胤が入り込むのを感じていた。
「んぁ♥ あっはぁ……♥」
窓から差し込んだ月明かりが、真っ暗な寝室に入り込み、淫行に耽る私の痴態を照らし出した。絶頂アクメの快感が収まり、深く回っていた酔いから覚めていく。
(え、あれ? どうして私……? 誰とセックスをしているの……?)
知らないベッド。知らない天井。知らない匂い。私は自分が家政婦のバイトで、鬼塚邸にいることを思い出す。
「ひぎっ! あぐぅ!?」
私は驚愕する。私が抱き付いていた相手は、毛むくじゃらの獣だった。
私は痩せこけた黒毛の犬と獣姦している。膣口に突き刺さったオチンポには、根元に巨大な瘤があって、オマンコから引き抜けない。
「あえぁ? はえぇ♥ んぎいぃい♥ だめっ♥ オマンコが裂けちゃあぁあああっぁああぁあいあいぁ♥」
黒獣はオチンポを乱暴に引き抜いた。ジュポンッと淫猥な音をあげて、オマンコから瘤付きのオチンポが抜けた。記憶は飛んでしまっているけど、私は繰り返し中出しを決められていた。
「んぁあぁぁぁあああぁ……♥」
膣口から逆流した白濁液が流れ出でいく。妊娠確実の濃厚な精子で、私の子宮は満たされている。剃り上げたばかりのパイパンオマンコから愛液混じりの淫臭が匂い立つ。
「ここまで淫乱な女性だとは思わなかったよ」
月明かりが陰る。薄暗い闇の中にいる人影は、枕元にあるスタンドライトのスイッチを付けた。
酔った私が黒獣だと思っていたのは、夜叉丸さんだった。乱れた髪を整え直し、煙草に火を付ける。
「あ……? ほえ……?」
肌寒さを感じて、私は毛布をたぐり寄せる。恥部を隠して、周囲を見渡す。
(ここは……夜叉丸さんの寝室……?)
事態が飲み込めない。だけど、ここで私がしてしまった過ちはすぐ分かった。
(うそでしょ……。私……夜叉丸さんとセックスしちゃってたの……!?)
正気を取り戻した私は、さきほどまでの淫事を思い出して、顔が真っ赤になる。しかし、直後に広輔くんのことを思い出して青ざめた。
「やっと酔いが覚めたって感じだね。そんなにアルコール度数は高くないはずなんだけどなぁ。それとも真理亜は酔うと人を襲う趣味でも?」
「私……そんなつもりじゃ……」
「誘いに乗った俺も俺だけどさ……。抱き心地は悪くなかったよ。よっぽど溜まってたらしい。こんなに搾り取られるとは思っていなかった」
言い訳のしようがない浮気。火照った身体は、情事を愉しんでいたことを証明していた。
広輔くんとのセックスでは味わったことない悦楽。顔を赤らめる私は、勃起している夜叉丸さんのオチンポから目を離すことができなかった。
「夜明けまで時間がある。続きをしようか」
夜叉丸さんが迫ってくる。理性を取り戻した私は、拒絶しようと顔を背けた。だけど、毛布を剥ぎ取られてしまった。
「やめてください。私には家族が……こんなことをされたら困ります……」
「ずっとセックスしてたのに今さら何に困る?」
「あっ……だめっ……♥」
再びオマンコの中に侵入してくる。愛液と精液塗れの膣口が亀頭でこじ開けられた。クパァと開口したオマンコと極太のオチンポが絡まり合い、私と夜叉丸さんは合体する。
(オチンポおっきい♥ 広輔くんのなんかよりもぶっとい……♥)
蕩けそうな吐息を吐く。夜叉丸さんは優しく私の身体を包み、両手で尻を揉み上げる。
ビクンビクンと膣を締め上げ、雌の本能に従うがまま、私の下半身はオチンポに媚びしてしまう。
「本当は望んでいたんじゃないのか? 田舎の生活は退屈だから理解はするよ。どうせ後戻りはできないんだ。それなら火遊びを愉しめばいい」
「いやっ……でも……こんないけないこと……」
「素直になりなよ。俺とセックスしてどう思う? 旦那とのセックスよりも興奮してるんだろ。夫婦でこんな激しいセックスはしてないはずだよな」
「やめっ……♥、そんなに強くお尻を揉まれたら……♥」
お尻の性感帯を刺激され、オマンコから愛液が湧き出した。
(まずいっ♥ こんなの反則でしょ……っ♥ 夜叉丸さんのセックス……すっごく上手ぅ……♥ オマンコが幸せ過ぎて頭がおかしくなっちゃう……♥)
淫猥な子宮は子胤を求めて、挿入中のオチンポに膣襞が絡みつく。勃起した乳首を夜叉丸さんは甘噛みで攻めてくる。
「真理亜の願いを言ってみて。俺が叶えてあげる。どうしてほしい?」
乳首をしゃぶりながら、夜叉丸さんは問いかけてくる。広輔くんは愛しているのなら、息子の真広を思うのなら、私は拒絶しなければならない。でも、私は誘惑に弱い女だった。
「抱いてください。気持ちよくなりたい……♥ めちゃくちゃに犯して♥」
逢隈村での生活は窮屈だった。広輔くんは仕事のことばっかり。
真広も男の子だから最近は話が合わなくなってきた。本当は女の子がほしかった。でも、もう一人を産むような余裕が清澄家にはない。
「んんあぁっ♥ もっと♥ もっとぉお♥ 気持ぢよくさせてぇえ……♥ 子宮がキュンキュンするのぉ♥ オマンコの中に出していいから、たくさん私を愛してぇえっ♥」
私が薄汚れた欲望を発露させる。初めての浮気は最高に気持ちよかった。もしかしたら、心の何処かで望んでいたのかもしれない。
夜叉丸さんとの不貞もきっかけに過ぎなくて、身体を持て余した私は、いつか誰かとこうなってしまっていたんだと思う。
「んんぁあああああぁぁ♥ 来てるっ! 来ちゃってるぅ♥ 精子がお腹の奥まで昇ってるゅ♥ 出されちゃってるぅああぁああああぁぁぁぁ♥」
ビクビクと肉棒が脈動する。それが精液を送り込む合図だと私は分かっていた。浮気相手の身体にしがみ付き、私は種付けを受け入れた。
「んあぁおっ♥ おおおぁぁ……♥」
絶頂に達した私は夜叉丸さん抱きしめる。結合した雌雄の結合はより深く結びつき、子宮内に精子を送り込まれていく。幸せに包まれながら、私は満たされていた。
「明日の夜も愉しみにしているよ。今日から真理亜は使用人だ。夜の世話も含めて、よろしく頼むよ」
「んぁっ♥ はひぃ♥」
私は夜叉丸さんとの愛人契約を交わす。もう広輔くんとのセックスなんかじゃ満足できない。こんなに幸せになれることを知ってしまったから、もう退屈なセックスでイクことなんてできなくなってる。
それから三度も夜叉丸さんとセックスした。騎乗位と後背位、そして最後に立ちバックで尻を叩かれながら、犯された。もちろん全部が中出しだった。
酔って記憶が飛んでいるときも合わせたら、十回以上は中出しされてしまっている。終わる頃には、下腹は精液でタプタプになっていた。
どうやって家に帰ったかは覚えていない。自分の服に着替えて、大澤さんの車に乗ったことは、朧気だけど記憶に残っている。
自宅の寝室で横になっていると、出勤前の広輔くんが心配そうに私を見ているのに気付いた。
「真理亜、大丈夫か? 何かあった?」
「広輔くん。心配しないで。本当になんでもないの。張り切りすぎて疲れちゃっただけ。鬼塚さんはとってもいい人だったわ」
私は嘘をついた。ほんのちょっとだけ、良心の呵責に苦しんだけど、子宮は疼きっぱなしだった。発情期を迎えてしまった雌犬のように、今の私は抑えがきかなくなっていた。
「疲れてるなら、今夜は休むか?」
「大丈夫……。それに道を覚えないといけないから、今夜は自分の車で行かなくちゃ……。ごめんなさい。ずっと起きていたから眠いの。眠らせて……」
誤魔化すためでもあったが、私は本当に疲れていた。セックスは全身を動かす激しい運動だ。無理のある体位で、何度も性行為をした反動が睡魔という形で襲いかかってくる。
◇ ◇ ◇
村外れの洋館で働くようになってから、私は夜叉丸さんとの肉体関係を続けている。最低最悪のことだけど、不倫の快楽に溺れてしまった。家政婦の仕事をこなす一方で、性奉仕も命じられ、私は求めに喜んで応じている。
私は自分の身体を持て余していた。セックスの誘惑を拒絶できなくなっていって、広輔くんよりも濃厚な夜を夜叉丸さんと過ごした。それでも最低限の理性は働いていた。子供ができてはいけないと、私はコンドームを用意した。
広輔くんとのセックスで使うために買っていたコンドームをわざわざ自宅から持ってきた。けれど、夜叉丸さんは避妊してくれなかった。事後は必ず、私の膣穴から精液が溢れ出した。
ある日、広輔くんはコンドームの入った箱がなくなっているのに気付かれた。不注意なことに、私は持ち出したコンドームを夜叉丸さんの寝室に置き忘れていた。
「真理亜? 寝室の箪笥に入れてあったアレ、どこかに移したのか?」
「え……? あっ! もしかしたら掃除してるときに、捨てちゃったかも……? 箪笥の右端に入ってない?」
わざとらしい素っ頓狂な声。三文芝居もいいところだ。
「なくなってるよ。引っ越しの時に捨てたんだっけ?」
「ひょっとしたらそうかもね。買ってくる? ちょっと遠いけど薬局に行けばあると思うわ……」
このとき、私が薬局に行きたかったのは妊娠検査薬を買いたかったからだ。この1カ月、生理が来てなかった。私は確信めいた予感があった。だけど、それは絶対にあってはならないことだ。
「わざわざ買いに行く必要もないだろ。使う予定もないしな」
思い返せば、広輔くんはもう私の不倫に気付いていたのかもしれない。不自然な私の態度、消えたコンドーム。状況証拠は揃っていた。
夜叉丸さんと過ごす夜の時間が、私の生活スケジュールの大部分を占めるようになる。自宅に帰っても睡眠と夕食造りしかせず、広輔くんや真広との会話は少なくなっていった。
そのあと、妊娠検査薬で陽性の反応が出た。
妊娠の事実を信じたくなかった私は、村の診療所で診断を受けた。もちろん、結果は同じだった。診察してくれた女医さんから懐妊を告げられた。
「——おめでとうございます。清澄さん。妊娠されていますよ」
女医が笑顔で口にした祝福の言葉は、私にとって呪詛に等しい。言葉を失って、青ざめる私を見て、聡い女医は望まない妊娠だとすぐに勘付いた。
「……医師としてご相談には乗れますよ。もちろん、守秘義務がありますから、ご家族にも内容は伏せますので……」
「……いや……その……っ! 私……っ……」
「どんなことでも、ご不安なことがあるのなら仰ってください。力になります」
「夫との子供じゃないんです。ちょっと前から浮気してて……。夫とはずっとセックスレスだったから……絶対……浮気相手との子供です……」
私は不倫相手の名前だけ伏せて、お腹の子供が夫の子供ではないことを打ち明けた。
受胎12週を過ぎたら堕胎は難しくなること、妊娠そのものが難しくなるかもしれないリスク。さまざまなことを説明してくれた。そして、最後に女医は、1人で抱え込まずに、誰かと相談をするよう助言する。
「そんなっ! こんなこと、夫には言えません……!」
「まずは浮気相手の方とご相談してはどうでしょう。清澄さんが妊娠されたことを、浮気相手の方はもう知っているのですか?」
「いいえ、妊娠検査薬の結果は誰にも言ってません」
「お腹の赤ちゃんについては、父親と母親で話し合って決めるべきです。ご家庭のことについても、浮気相手の方と話し合うことをおすすめします」
その日、私は自宅に戻らなかった。広輔くんには真広と2人で外食してほしいと携帯で伝える。平静を装っていたけど、きっと声は震えていた。
私は車で鬼塚邸に向かう。いつも通り使用人室でシャワーを浴びる。今までは意識していなかったけれど、下腹がポッコリと膨らんでいる。
妊娠3カ月。まだ服で何とか誤魔化せるけど、このまま胎児が成長すれば、妊娠したことは明らかとなる。
「妊娠しちゃいました。夜叉丸さんとの子供です……!」
部屋で新聞を読んでいた夜叉丸さんは、大きな反応は見せなかった。むしろ望んでいたのかも……。
コンドームを付けようとせず、中出しをし続けていたのだ。最初から私を妊娠させる気だったに違いない。
「離婚するなら、この館で暮らすといい。ちゃんと責任はとるつもりだよ。慰謝料の心配もいらない。全部、俺が面倒見てあげるよ」
それは私が期待していた言葉だった。こんなことをしてしまったら、もう広輔くんとは一緒にいられない。どんなに家族を愛していても、離婚を突きつけられるに決まっている。
「旦那に言うのが辛いなら、ここに連れてくればいい。俺の口から全部説明して、離婚まで運んでやる」
「待って……それは……ちゃんと……私がします。まだ、広輔くんと離婚すると決まったわけじゃないから……!」
「俺との子供を堕ろす気か? 堕胎には同意しないからな。子供は産むべきだ。そのために真理亜を雇ったんだ」
「やっぱり……最初から鬼塚家の子を産ませる目的で……私を雇ったの?」
「無理強いするつもりはなかった。だけど、真理亜だってその気だったろ。今さら不本意だったと言い訳する気なのか?」
私は反論することができなかった。夜叉丸さんとの関係を愉しんでいたのは、否定できない事実だったから。退屈な田舎暮らし。広輔くんは仕事で忙しくて、真広も最近は私に構ってくれなくなった。
(本当は女の子がほしかった……。一緒におしゃれしたりできるような……女の子……)
お腹に宿った夜叉丸さんとの子供が、女の子とは限らない。でも、こうなってしまったら、もう私は産む以外の決断しかできなくなってしまった。
それから数日後、役所で離婚届をもらった私は、広輔くんに全ての過ちを告白した。考える時間がほしいと言われ、私は息子の真広にだけは知られないように、今まで通りの母親を演じた。
それでも日に日に、お腹の重みは増していく。妊娠したことは真広にも明かすほかなかった。近所の人にも表向きは、夫の子供だと言い繕った。
表面上、広輔くんとの夫婦関係は続いている。だけど、夜叉丸さんとの不倫関係も継続していた。
私は夕方になると出かける。家政婦のアルバイトと称して、不倫相手のいる鬼塚邸に……。夕暮れになると、広輔くんはお酒を飲んでいることが多くなった。
妊娠後期になると、私はマタニティ用の服しか着られない体型となった。
バストサイズが大きいせいで、相撲みたいに着膨れする。スーパーで買い物をしていると、大きなお腹に視線が集まるのを感じた。
レジ係のオバさんには顔を覚えられた。しかも、「妊婦さんだから車椅子用の駐車場を使っていいのよ〜。身重の奥さんを1人で買い出しに行かせるなんて、酷い旦那さんね」と気遣われた。
広輔くんの評判を落としたくなかったけど、まさか浮気相手の子供を身籠もってしまったとは言えない。
日常生活が難しくなっても、私は鬼塚邸で働いている。夜叉丸さんが宿泊することを許してくれた。ただし、奇妙なルールを強いられた。
「館に泊まるのなら、日中は地下で過ごすこと。1階から3階、外に出るのも禁止だ。地下室の扉には鍵をかける」
「どうして外に出てはいけないの?」
「正午に館の空気を入れ換えてる。バイ菌の多い外気をいれるから、浄化されるまで俺は地下に退避してるんだ」
その説明に釈然としないものを感じた。けど、身重の身体では車を運転するのも苦しくなってきた。
(それだけじゃなくて、自宅で広輔くんと過ごすも辛い。いっそ、広輔くんも誰かと不倫していれば、私の気も楽になるのに……。最低……私ってば……最低なこと考えてる……)
離婚を望んでしまっている。私は自己嫌悪に陥る。お腹が大きくなるにつれて、広輔くんは目に見えて憔悴してきた。まるで私が加害者のようで、気に入らなかった。
妊娠7カ月から10カ月までの3カ月間、出産予定日が迫る臨月を迎えるまで、私は平日を鬼塚邸で過ごし、土日だけを自宅で過ごすようになった。
息子の真広には、出産に備えて入院していると嘘をついた。
広輔くんにも本当のことは教えていない。だけど、私が浮気相手の家に泊まっていると気付いているはずだ。妊娠中も私は夜叉丸さんとのセックスを続けていた。
広輔くんとのセックスでは、もう満足できない。夜叉丸さんの極太オチンポじゃないと感じられない身体に開発されてしまった。
◇ ◇ ◇
出産予定日まで1週間を切った土曜日。私は村の診療所で妊婦健診を受けていた。エコー検査で胎児の身体が画面に映し出される。夜叉丸さんとの赤ちゃんはすくすくと育っていた。性別も既に分かっている。女の子だった。
「総合病院へ入院して、帝王切開での分娩をするべきですね。清澄さんのお腹にいる赤ちゃんは逆子です」
「逆子? どんな病気なんですか?」
「いいえ、病気じゃありません。出産間近になると、膣口に頭を向けるはずの胎児が、足を向けちゃってるんです。赤ちゃんは頭から産まれてくるんですけど、稀にこういうこともあるんです」
「長男を産んだときは、そういうことはなかったのに……。ひょっとして妊娠中に……セックスしちゃうとそういうことになるんですか?」
女医は何とも言えない表情を作る。私が浮気していると知っているので、セックスの相手が夫じゃないと分かっているからだ。
「通常の場合、頭の方が重たいので、頭部が下になるというだけです。活発な赤ちゃんだと、動き回って逆子になるって話もありますよ。でも、出産が間近なので、激しい運動は控えたほうがいいですね」
(ああ、よかった。まったくもう……! 女の子だっていうのに元気いっぱいなのね。お腹を蹴る回数も、真広より多い気がするわ。それとも夜叉丸さんとセックスばかりしてるから、小突かれて迷惑がっているのかしら?)
「いつ産まれてもおかしくないです。診断書と紹介状を作ってきますね。看護師に飲み物を持ってこさせるので、楽な姿勢でくつろいでください」
女医はそういうと診察室から出て行った。しばらくすると入れ替わりで、年配の看護婦が紙コップに入れたお茶を持ってきてくれた。いつも受付で体温計を渡してくれる老女だった。
「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていて」
差し出された紙コップを手に取ろうとしたときだった。入ってきた看護婦は恐ろしい形相を作り、私を睨み付けた。
「逆さ子は不吉な忌み子だ……!」
「え? あの……なにを……?」
「お前は神に背く怪物を孕んでいる! お前の子供は、生まれてくるべきではない悪魔の子だ! まだ間に合うぞ! 罪を悔い改めるのなら、今すぐに子供を殺せ!」
看護師が信じられない暴言を吐いた。男性のような退くい声で喋るその様は、悪霊に憑依されているように見えた。
「悪魔の子を産むのなら、お前の息子に神罰が下るぞ! 悪魔に手を差し伸べた者は死なねばならない!」
異様な雰囲気の看護師に圧倒される。窓の向こうを見ると、風で舞い落ちる枯葉が空中で停止していた。
時間が止まったかのように時計の秒針も動いていない。
(なんなのこれ? 私は幻覚を見ているの……? なんでこの人こんなことを? それとも私がおかしくなってる?)
看護師の首には、光り輝く十字架がぶら下がっていた。
「私は神より遣わされた。飲め! 悪魔の子を葬り去りたいのなら飲め!」
看護師は紙コップを押しつけてくる。私はその中身を見て絶句する。蠢く蛆虫やムカデ、粘液の滴るミミズが紙コップの中でひしめき合っていた。
「ひぃっ! いやぁあああっ!」
私は害虫が蠢く紙コップを振り払った。その瞬間、止まっていた時間が動き出す。私が叩き落とした紙コップは床に転がり、入っていたお茶が床に広がる。
「あ、あの……どうされました? 清澄さん?」
呆然とする年老いた看護婦。声も普通に戻っている。先ほどとは違って、困惑しつつも温和な表情を浮かべている。
「え? あれ……?」
何もかも普通に戻っていた。私と同じように看護婦も怪訝な顔を作っている。
「すみません。ちょっと疲れているみたいです。変なものが見えてしまって……」
現実感のある幻覚と幻聴だった。看護婦のまともな反応をしているので、きっとおかしいのは私なんだ。
妊娠中は精神が不安定なると、聞くからきっとそうに違いない。再度、看護婦に謝ろうとしたその時だった。診察室の扉が勢いよく開いた。
「清澄さんっ! 申し訳ないのですが、診察室のベッドを開けていただけますか?」
慌てた様子の女医は、何とか聞き取れる限界の早口で言った。
「急患の方ですか……? 分かりました。それなら時間があるときに診断書と紹介状を受け取りにきますね」
「いいえ、清澄さんもここに残ってください。運ばれてきたのは真広くんです!」
「えっ……? 真広? どうして息子が……!?」
「公園で高熱を出して倒れているのを近所の人が運んできたんです!」
◇ ◇ ◇
診療所に運び込まれた急病人は息子の真広だった。私がベッドを譲ると、ぐったりとした真広が運ばれてきた。
「とんでもない高熱で、呼吸も安定していません。救急搬送の救急車を呼んでいます。もっと大きな病院に運んで治療しないといけません」
「真広はそんなに危ないんですか……?」
「清澄さん。落ち着いて質問に答えてください。真広くんは心疾患など、何か重たい持病がありますか?」
「いいえ、ありません……!」
「アレルギーはありますか?」
「まったくないです。今まで体調を崩すようなことは一度もなかったのに……真広……どうしちゃったの……!?」
素人目に見ても真広は死にかけている。身体は小刻みに痙攣していて、女医はAEDの準備を始めていた。
「朝に何か変わった様子は? たとえば普段は食べない物を食べたりしましたか?」
今日は土曜日。私は自宅に寄らず、鬼塚邸から診療所に来た。ひょっとしたら広輔くんが、変な物を真広に食べさせてしまったのかもしれない。
「ごめんなさい。分かりません。最近は自宅にほとんど帰ってなくて……」
いつも心優しかった女医は一瞬、私に軽蔑の視線を向けた。私は堪えきれず、顔を俯かせた。
「真広くん。私の言葉が聞こるかな。聞こえるなら返事をしてくれる」
「きこ……える……よ。お医者さん……」
「朝に何か変なものを……。あら? まって、この治りかけの噛み傷……! ひょっとして犬とか猫に噛まれたりした?」
女医が最初に疑ったのは食中毒だった。しかし、手首に残った治りかけの噛み傷に気付いた。
「……犬に噛まれた……遊んでたときに……」
私は咄嗟に割り込んでしまった。
「家で犬なんて飼ってません……! 借家なのでペットは飼えないんです」
「ごめんなさい。ママ……。村外れのボロ家で……今まで野良犬とずっと遊んでたの……。懐いてるから餌もあげたりしてた……」
私は立ち尽くしていた。気にかけていなかったけど、真広は犬を飼いたがっていた。ずっと野犬に餌をあげていたに違いない。ちゃんと話を聞いてあげていれば、危ないことをしていると気付けた。
「村外れのボロ家……? 鬼塚邸の廃墟で遊んでいたのね」
(鬼塚邸の廃墟……?)
女医の言い放った衝撃的な言葉を、私は何かの聞き間違いだと思った。
「猟師が手に負えなくなった猟犬を捨てていると聞いたことがある。きっと予防接種もされてない野犬だわ。この噛み傷はかなり前……。化膿してないけど、きっと良くない菌が入ってしまったんだわ」
「え……? あの……?」
「こういう田舎だと山奥には野犬もいるんです。元々は人に飼われているから、完全には野生化していないこともあります。とりあえず抗生物質を投与します」
「そうじゃなくて……。鬼塚邸の廃墟ってどういう……?」
「知らないのですか? 村外れにある有名な廃墟ですよ。何十年も前に新興宗教に嵌まった鬼塚という資産家が別荘を建てて、村の人達とトラブルを起こして、捨てていったんです。誰も使ってない廃屋ですけど雨風がしのげるから、獣が住み着いたりしてる場所なんです」
「逢隈村に鬼塚家の人はいないんですか?」
「はぁ? もういませんよ。何十年も前の話です。私だってそんなに詳しくありません。村のお年寄りから聞いた話なんですから」
この忙しいときに、何でこんなことを聞くのかと女医は苛立ちを発露する。しかし、私は震えが止まらなかった。
私がこの十カ月、働いていた場所が廃墟だった……? 鬼塚家の人間がもういないのなら、鬼塚夜叉丸とは誰なの? 私のお腹にいる子供の父親は何……?
気分が悪くなった私は、トイレに駆け込んだ。
女医や真広の言っていることが正しいのなら、鬼塚邸は無人の廃墟だ。野犬が住み着くような廃屋となっている。
トイレの個室に入ろうとドアを押すと、中にいた誰かの身体に打つかった。
「あぁっ! すいません。鍵が閉まってなかったら、中にいるとは思わ……」
言葉を失った。私にお茶入りの紙コップを持ってきてくれた看護婦が首を吊っていた。天井の電球に十字架の首飾りを括り付け、両足を浮かせている。
看護婦がとても穏やかな笑顔で死んでいた。にっこりと笑って、私に語りかけてくる。
「おぞましい恐怖が、真広を殺そうとしている。真広を助けるには夫婦の力を合わせないといけない。子供を救えるのは父と母の絆だ」
死体は喋り続ける。語りかけてくる何かは、胎児を殺せと脅してきた存在とは別の存在に感じた。
「まずは偽りの夫が待つ家に行け。そこで血の聖杯を受け取り、日没に本物の夫が待つ家へ帰りなさい」
私は気付く。それは夜叉丸さんの声だった。超常的な現象を前にして私は混乱する。死体が喋るなんて、非現実的だ。
そもそも私の前にある首吊り死体は本物? これも私が見ている幻覚や幻聴……?
たとえ幻であっても私は従うしかなかった。女医の制止を振り切って診療所を飛び出し、自分の車に乗った。そのまま猛スピードで、広輔くんの待つ自宅に急いだ。
◇ ◇ ◇
「おやぁ……。奥さん……。ちょうどいい塩梅のときに来てぐれたなぁ……。時間通りだっぺぇ……」
「大澤さん……? どうして……? なんで広輔くんが死んでるのよ……?」
自宅のリビングルームに広輔くんがいた。正確には広輔くんだった肉塊があった。床も壁も血塗れ。血の海と化している。
そこにいるのは郵便局で働く広輔くんの上司、大澤さんだ。手に持っている包丁からは、鮮血が滴り落ちていた。
「殺そうとしてきたから、殺し返したんだべさ。広輔くんは、いろいろ分かってなかったんだ。おいらのことを奥さんの間男だと勘違いしてた……」
「えぇ……? なに? どういうこと? 意味が分からないわ……!」
「広輔くんは悪さしとったんよ。郵便局の金に手を付けてたんだ。田舎に左遷されて、仕事がよっぽど詰まんなかったんだなぁ」
「広輔くんが横領……?」
「そうだぁ。おいらが広輔くんの悪さを隠してあげたんだ。その代わり、奥さんを働かせろってお願いしてなぁ。
「まさか大澤さんが仲介してくれた家政婦のお仕事って……」
「思い違いしちまったんだな。おいらは奥さに指一本触れてねえ。お腹の子供だっておいらの種じゃねえけど、信じてくれんかった」
「夜叉丸さんは何なの!? 答えてよ! 私は誰の下で働いていたの……? お腹の子は……!」
「すまねえな。おいらは鬼塚様に借りがあるんだ。ほんと、奥さんには申し訳ねえ。でもな、こうしねえと、孫が助からねえんだ……」
「もうわけがわかんない! ちゃんと教えて!」
「……大昔に頭のおかしいカルト宗教の教祖が、逢隈村にあの洋館を建てたんだ。悪魔を崇拝する邪教だぁ」
「カルト……?」
「おいらがまだ子供の頃、戦争が終わって皆がひもじい時代だった……。教祖はインチキで信者から金を巻き上げてる悪人だ。家畜を捧げて、願いを叶える悪魔を呼び出す変テコな儀式をしてた……。こんなふうに生け贄を滅多刺しにして、心臓を抉り出すんだぁ……」
大澤さんは広輔くんの胸に包丁を突き刺して、心臓を体内から摘出した。
「おいらの親父と御袋も信者になってた。そんで、蔵にあったミイラを教祖に献上してから、何もかも本物に化けちまったんだ……。村の全員が狂っていった。でもな、外国から来た宣教師様がお祓いして、あの館に封じ込めてくれた」
大澤さんは逢隈村の忌まわしい過去を語り続ける。私にはそれが出鱈目とは思えなかった。
「願いを叶える悪魔は館から出れねえ。御天道様を拝むことも無理だ。誘惑で人を惑わすから、館の地下に封じ込められてた。地下の扉が開かないように見張るのが、おいらの仕事だった。でも、真広くんが開けちまった……」
「え……?」
「知らなかったんだろうなぁ。逢隈村に引っ越してきた日に、悪戯で廃墟に入って、地下礼拝堂の扉を開けちまったぁ。おいらはその日、不注意で孫を車で轢き殺したんだ。車の後ろにいたなんて気付かなかったんだ……」
孫を轢き殺したと涙を流しながら話す大澤さん。だけど、そんな話は聞いたことがない。
ここは小さな村だ。そんな大事件が起これば、新参者の耳にも聞こえてくるはずだ。それに平和な日本なら、新聞やテレビでも取り上げられるほどのニュースとなる。
「孫を生き返らせるには、もう手先になるやるしかなかったんだ。おいらも親父と御袋も、逢隈村の皆を飢え死にさせないように悪魔と取引したんだ。誰かを助けるためには手を汚さなきゃなんねのさ」
大澤さんは私に広輔くんの心臓を押しつける。私は床に落としそうになった。でも、大澤さんの言葉を聞いて、心臓をしっかりと握りしめた。
「真広くんを助けたいなら、鬼塚様にお願いするしかねえぞ。鬼塚様の女になって子供も拵えたんだ。きっと願いを叶えてくれる。奥さんだって、おいらと同じで後には退けねえべ?」
私は広輔くんの心臓を握りしめて、自宅を去った。広輔くんを殺した大澤さんは、ペットボトルに入れていたガソリンを振りまいてた。
自動車を走らせ、鬼塚邸に続く山林に入った頃、自宅のある方角から黒煙が上っているのが見えた。
時刻は夕暮れ、逢魔が時……。
私は鬼塚邸のある場所に辿り着いた。日暮れ前に来るのは初めてだった。私は初めて鬼塚邸の本来あるべき姿を見た。
——今にも崩れて消え去ってしまいそうな廃屋だった。
並木の向こう側に太陽が消えた。光源を失うと、周囲は真っ暗に染まる。そして、私にとっては馴染み深い怪しげな洋館が姿を現した。
広輔くんの心臓を手に抱え、私は鬼塚邸に足を踏み入れた。
その瞬間、抉り出された心臓が鼓動を始める。こんな異常なことが起こっているのに、私はちっとも驚かなかった。
いつも通りに使用人室に向かう。今夜は給仕服ではなく漆黒のウェディングドレスが用意されていた。
1人では着られるはずもない。だけど、勝手に花嫁衣装が動いて、私の着ていた妊婦服を切り裂き、身体に纏わり付いた。
淫猥極まる嫁入り装束だった。乳房と膣口、お尻の穴も含めて恥部が丸出しのデザインだ。肥大化した乳首には、逆十字ピアスを装着させられてしまう。
丸々と膨らんだ妊婦腹は、透き通る薄布で覆われている。半裸に近しいドレスなので、腹回りは苦しくない。
——気がつくと私は館の地下に移動していた。ここは地下の礼拝堂だ。
「お前の息子には感謝しているよ。ずっと忌々しい館の地下に囚われていた。俺の声が人間に届かないこの地下礼拝堂にな……」
等間隔に並んだ長椅子に、たくさんの人が座っている。その全員が死人の顔だった。自宅で別れた大澤さんも半分焼け焦げた姿で座っていた。
「大澤の話は正しいが一つだけ間違いがある。俺をこの館に封じ込めた宣教師は、普通の人間じゃなかった。天からの使いだ。俺が地獄からの使者であるように、天からも使者は訪れる。真理亜の前にも現れたはずだ。俺が始末しておいたがな」
夜叉丸さんが言っているのは、きっと診療所で自殺させれた看護婦のことだ。私に堕胎を迫った理由が今なら分かる。
「古くは鬼、今は悪魔と呼ばれている。真広が封印を緩めてくれたが、俺という存在はこの館に縛り付けられ、どうやっても抜けだない」
「貴方は囚われた憂さ晴らしに私を孕ませたの……?」
「自由を手にするためだ。受肉と再臨。真理亜が孕んだ悪魔の子は、俺の霊魂を受け継ぐ存在だ」
夜叉丸さんは私の膨らんだお腹を指差す。
「キリスト教の三位一体を知っているか? 父と子と聖霊は同一と見做される。つまり、神とその息子のキリストは同じ存在。ならば、悪魔とその子供はどうだ? 逆もまたしかり。悪魔とその子供、悪霊は三位一体なのだ」
祭壇の前に立つ夜叉丸は、悪魔の姿に変身する。蝙蝠の羽根を広げ、頭部からは山羊の捻れ角、尻には黒狼の尻尾を二本、足は毛深い牛の蹄。私は雄々しい巨大な瘤付きの肉棒に目を奪われる。
そそり立つ極悪の巨根にうっとりとしてしまう。この暴虐的な欲望を受け入れたとき、私はどれほどの快楽を得られるのだろうと……。
「真理亜。お前が産む子供は俺だ。人間の子として生まれることで、この館の悪魔封じを抜け出すことができる」
悪魔の子。私の胎内には怪物の子が宿っている。発狂してしまいたくなる状況だけど、私はありのままの現実を受け止める。
「純粋な悪魔はこの館から出られない。しかし、人間の子供として生まれるのなら、天使の封印をも欺ける。俺の意思が宿った子供が現世に再誕するのだ」
「真広はどうなるの……?」
「俺たちが真広を助けるんだ。天使は俺を助けた真広を殺そうとしている。地下に封印されていた俺を助けた天罰と称してな」
地下礼拝堂に封じられていた悪魔を解き放った。つまり、真広に懐いていた野犬の正体とは、夜叉丸さんなんだ。私は初めて館を訪れたときに見た淫夢を思い出す。
私は黒毛の野良犬とセックスをしていた。きっとあれは現実だったのだ。
「俺と真理亜が夫婦の契りを交わし、悪魔の子が誕生すれば真広は助かる。俺と婚儀を結び、亡き夫の心臓を喰らえ。そうすれば真理亜の腹は満たされ、胎児の受肉が完成する」
鏡で囲まれた地下礼拝堂の祭壇で、私の望みを悪魔を受け入れる。促されるがまま、手に持っていた広輔くんの心臓を口に運んだ。手のひらに収まりきっていない脈動する心臓を私は一口で飲み込んでしまった。
腹に宿った悪魔の子が歓喜している。生け贄の心臓を食したことで、いっそう生命力が増しているのだ。出産の準備はついに整った。
(今さら……拒絶することなんて……もう私にはできない……っ♥)
骸骨椅子に座る夜叉丸さんは、勃起したオチンポを私に向ける。私はお尻を差し出し、アナル処女を捧げた。
「あぎっ♥ んあぁ……んぷっ……♥」
極太のオチンポを突っ込まれて、子宮の裏側を亀頭でごりごりと刺激された。気付けば私の膣口からは、羊水が溢れ出ていた。
赤ちゃんが胎内で動き回る。羊膜が破れて破水しているのだ。今この瞬間に私は出産しようとしていた。
「おぉおお尻にぃっ♥ すっごぃオォチンポオオ♥ あぁぁああ! らめっ! だめっ♥ いやぁ♥ 夜叉丸さんっ♥ もっとやさしくぅ♥ 赤ちゃんが来てえるのぉ♥ 産まれちゃうからぁ♥」
懇願しても夜叉丸さんは下からの突き上げを止めない。身体を捕らわれた私は、されるがままに尻穴を犯される。むき出しの乳房が左右上下に暴れる。乳首に付けられた逆十時ピアスが紫色に輝きだした。
「夜叉丸さんぁんぁ♥ そんなに乱暴にしちゃぁ! だめえぇぇえ! もうむりっ♥ 赤ちゃん来ちゃってるんだからぁ! もっとぉ♥ ゆぅっくうりぃ動いてぇ……っんあぁ♥」
激しい突き上げで、ボテ腹が揺さぶられる。絶頂アクメに導かれ、全身の筋肉が緩んだ。尿道から黄色いオシッコが溢れ出す。そして、膣口から血が滴り落ち、産道から赤子が這いずり出てきた。
「いくぅうぉ……お……ぉんほおおっ♥ んぁ♥ もぉっんんもぉおおおうぅうっ、だあああ♥ んひぃ♥ らめぇぇぇ♥ あぅっ、悪魔の赤ちゃんがぁっ! うっ、オマンコから産まああ……ぁあ…れ………っるうぅ……っ♥」
ビキッビキッ! と膣口が裂ける音が聞こえた。腹部が大きく蠢く。産道から胎児の身体が現れた。ついに私と夜叉丸さんの赤ちゃんがこの世に誕生する。
「おぉぉぎゃああっ! おぉぉぎゃああぁーっ!」
産声が地下礼拝堂に響く。私は悪魔の子を出産した。女の子だった。
悪魔の血を引く私の娘には、産まれたばかりなのに鋭い牙が生えていた。産道から伸びた臍の緒は、まだ娘と繋がったままだ。
礼拝堂で出産を見守っている死者達は、出産を遂げた私に拍手を送っている。
「産んじゃだった……あぁっあぁぁっ♥ んぁあぁああ♥ あ………あああぁっぁぁ……♥ 出産アグウメっ♥ 最高っ……♥ 気……っ持ちぃい……♥」
体力を使い果たし、疲労困憊していても、快楽の波は押し寄せてくる。悪魔の極太チンポは、まだ尻穴に刺さったままだ。
「んぁはっ♥ 夜叉丸さんに永遠の愛を誓いますぅ♥ んんぁ♥ んちゅ♥ んちゅうっ♥ 夜叉丸さまの極太オチンポをもっと気持ちよくしてあげるぅ♥ ずっと、ずっとぉ、この館で……夜叉丸さんの赤ちゃんを産ませてくださいぃ……♥」
私は愛おしい夜叉丸さんに唇を捧げる。礼拝堂の鏡には悪魔と交わる淫猥な自分の姿が映っていた。出産を終えた身体には異変が起こっていた。
悪魔の角と尻尾が生え、両手両足の鉤爪のように鋭く伸び、赤黒く染まる。堕落した私も洋館に封じられる悪魔の一匹となってしまった。
「人間性の全ては娘に受け継がれた。真理亜は館に囚われるが娘は自由だ。人間の身体を持つ悪魔を縛り付けることはできない」
「んぁっ♥ あはんっ♥ 夜叉丸さん。もっと、もっと私を愛してっ♥ めちゃくちゃに私を犯してぇ♥ もっとオチンポ汁をちょうだい♥」
私は産み落としたばかりの娘に、アナルセックスを見せつけていた。
真実の愛を手に入れるという私の願いは成就した。私は悪魔の肉棒に尻穴を押しつけ、欲望のままに快楽を貪る。
「いっちゃうぅっ! いいぃぃいっ! きてっ♥ でっかいオチンポきてぇえ♥ おおおぉほぉっ♥ 奥まで夜叉丸さんのオチンポを突っ込んで中に出してぇっ! くるっ! くるうぅう! いっちゃうううぁあうぅうっうぅあぁぁあぁあああああぁぁぁあああああああぁ……♥」
人外となった私は叫んだ。狂気を孕んだ嬌声で、娘の誕生を祝福する。
娘の名は真夜。真理亜と夜叉丸様の子供だから、二人の名前から一文字ずつを選んだ。支配の悪魔として、人類を統べる悪しき者。こうして私は怪物の母となった。
「え……? あれ……? 夜叉丸さん……?」
私を抱いていた夜叉丸さんの身体が忽然と消えた。
床で四つ這いになっていた娘が立ち上がり、臍の緒を噛み千切る。赤ちゃんの閉じていた両目が広がり、目蓋を開いた。
「自由になれた。名前もありがとう。感謝するよ。これで真広の妹になれた……。そして、悪魔を囚われる悪魔の代わりも作れた。素晴らしい」
「どうして……待って……え……? 私は夜叉丸さんに全てを……」
「堕落した魂いらない。お前との繋がりを絶つために臍の緒を絶った。清らかな魂にこそ価値がある。最初から欲しかったのは真広との繫がりだ。母親はいらない」
私の身体が鏡の中に吸い込まれていく。助けを求めて私は手を伸ばすけれど、悪魔はその様子を笑って見ていた。
「え……いや! 捨てないで……! たすけ……っ!」
悪魔となった私は、破魔の鏡に封じ込められた。代わりに囚われる悪魔を用意しない限り、私は永遠に鏡の世界で苦しみ続ける。悪魔は私を愛していなかった。悪魔が心から愛しているのは真広だった。
——利用されていたことに気付いたとき、私は破滅した。
◇ ◇ ◇
十年前のあの日、俺の父さんは郵便局のお金を横領していた大澤という上司に殺されてしまった。原因不明の高熱で倒れた俺は、自宅に戻らず、病院に運ばれていたので、運良く殺されずに済んだ。
当時、妹を妊娠していた母さんは診療所で検診をうけていたが、父さんを心配して家に戻ったとき、殺人の現場を目撃してしまった。
母さんは精神的におかしくなっていた。
俺は熱を出して倒れただけだったのに、狂犬病で死ぬと勘違いしてしまったそうだ。妊娠中で精神が不安定になっていと、医者は言っていた。
父さんの死体を見て錯乱した母さんは、そのまま姿を消してしまう。その後、しばらくして、警察が村外れの廃屋で母さんの車が発見された。そして、生後間もない新生児が廃屋の地下室で見つかった。
母さんの衣服で包まれた赤ん坊。上着のポケットには手紙が残されていた。
手紙の内容をお爺ちゃんとお婆ちゃんは、教えてくれない。そこには妹の名前が「真夜」であると記されていたそうだ。警察は母さんの行方を探したが、今も見つかっていない。
この日、俺は妹の真夜と一緒に逢隈村を訪れていた。
「お兄ちゃん。やめよう。危ないよ。もう帰ろう。真夜、ここ恐い……」
今年で十歳になった真夜は、小学4年生となった。兄だから贔屓目に評価してしまうのかもしれないが、雑誌の表紙を飾れるくらいの美少女だ。
「花束を置いてくるだけだよ」
「ダメ。入っちゃダメ! お化けが出てくる! お兄ちゃんも行ったらダメなの!」
村外れの廃墟は、いまも姿を残していた。母の事件があったから、撤去されると思ったが、今も十年前と何一つ変わっていない。
「仕方ないな。とりあえず入り口に置いておくか」
嫌がる真夜をむりやり連れて行けない。仕方ないので、入り口に花束を置く。
(たぶん、母さんは生きていないんだろうな。でも、ひょっとしたら……って思っちゃうんだ。母さんが実は生きているんじゃないかって……)
後になって警察から教えてもらったことだが、真夜の父親と俺の父親は違うそうだ。DNA検査で清澄真理亜との血縁関係は認められたが、清澄広輔との親子関係は0%だった。
家政婦のアルバイトを始めてから、母さんは少しずつおかしくなっていった。父さんもよそよそしい感じだった。これも後になって聞いたことだけど、母さんはこの廃屋で浮気相手と密会していたとか、そんな噂もあったらしい。
錯乱した母さんは、一人でこの廃屋を訪れて真夜を産んだ。でも、実は浮気相手がいて、お産を手伝ったんじゃないかと警察は疑っていたらしい。
真相は闇の中だ。
分かっているのは一つだけ。真夜を産んだあと、母さんは消えてしまった。生きているのかさえ分からない。
「真夜もお兄ちゃんが大好き。ずっと、ずっと一緒にいようね。私がお兄ちゃんのお嫁さんになってあげる」
「あっはははは。本当に真夜は可愛いなぁ」
こんなに可愛い妹も、いつかは反抗期が来るのだと思うと、憂鬱になってくる。ずっとお兄ちゃんが大好きな妹であってほしいが、さすがに兄妹で結婚はできない。
「ん? どうしたんだ? 真夜」
「なんでもないよ。ねえ。お兄ちゃん。歩くの疲れちゃったからおんぶして!」
「仕方ないな。林道を抜けるまでだぞ」
「やった! お兄ちゃん大好き! 大好きっ!」
「あんまり強く抱き付くなよ。兄ちゃんは運動神経がよくいないんだ。バランスを崩してひっくり返るかもしれないぞ」
「抱きしめないとオッパイが当たらないでしょ。結構、膨らんできたんだよ。お兄ちゃんに揉んでもらったら、もっと大きくなるかも♥」
「そういう色仕掛けは、もうちょっと成長してから、ちゃんとした相手を選んでやるんだな。お兄ちゃんを口説いてもしょうがないぞ」
「いいのっ! 私はお兄ちゃんが大好きだもん。お兄ちゃんだって、私のことが世界で一番大好きでしょ。だから、お兄ちゃんは私としか結婚しちゃダメ♥」
「真夜のブラコンがいつまでも続くことを祈るよ」
「ずっと、ずっと続くよ。お兄ちゃんは死んでも真夜と一緒に遊ぶの!」
はしゃぐ真夜を背に乗せて、俺は山林の小道をゆっくりと歩いていく。
成長期の真夜は身長が伸び、女性らしい体付きになっている。幼少期ほど軽くはないはずだ。だけど、妹の身体は羽毛のように軽かった。背中から生えた翼を使って、体重を軽くしているようだった。僅かな浮力すら感じる。
「バイバイ。産んでくれてありがとう。ママ♥」
ご機嫌な真夜は、母さんに別れを告げる。まるであの寂れた廃墟に母さんがいるかのような口振りだった。
◇ ◇ ◇
春の短編祭2021の参加作品です。
家族の別れと出会いを描いた伝奇物語。
ビジュアルノベルを作ろうとして挫折し、眠らせていたものを再利用しています。背景画像とかはその名残。ちょっとだけホラーな雰囲気を味わってほしいです。
♥初めての1人称ものなので感想を書いてくれると作者が喜びます。
▼ちょっとした種明かし▼
Q.真理亜はその後どうなったの?
A.悪魔化して鏡の中に封印されてます。鏡から抜け出しても、館に囚われています。
Q.鬼塚夜叉丸って結局、何なの?
A.「願いを叶える悪魔」です。人間の望みを叶える範囲でしか力を使えません。大昔にお坊さんが調伏してミイラ化し、大澤家の蔵に封じられていました。第二次大戦の終戦後、困窮した逢隈村にカルト宗教の教祖がやってきて、ハチャメチャなことを始めました。儀式は出鱈目だったのですが、村を救いたい一心で、大澤家の人間が、蔵にあったミイラを提供してしまい悪魔が目覚めました。
Q.どうして館に封じ込められてたの?
A.キリスト教を布教するために訪日した宣教師に悪魔祓いされて、鏡の中に封じ込められました。ついでにカルト宗教もGHQの米兵が出動して殲滅(本編だとカット。長すぎるしダレるので)。
夜な夜な鏡から抜け出すことを予見していた宣教師は、館そのものを封印を施し、悪魔が絶対に出られないように祷りを捧げました。宣教師には天使が取り憑いていたので、悪魔が自力で封印を解くことは不可能です。
Q.悪魔は真理亜に惚れてたの?
A.惚れてたのは息子の真広に対してだけ。真広が鏡を割って中から出してくれました。最初は真広に取り憑こうとしていましたが、野犬の姿になって遊んでいるうちに、ガチで惚れ込んでしまいます。真広と家族になりたいので、真理亜に近付きました。
Q.真広は何をしていたの?
A.村外れの廃墟を探検していたとき、鏡の中にいた悪魔を助け出しました。ただし本人は無自覚です。悪魔は地下室で死んでいた野犬に取り憑き、真広と遊ぶようになります。本編の冒頭で、真広が犬を飼いたがっているのはそのせいです。
ちなみに真理亜には夜叉丸が人間に見えていましたが、実物は野犬の死体に憑依した悪魔です。なので、正常な人間が真理亜と夜叉丸のセックスを見ると、廃墟で獣姦している変態にしか思えません。
Q.真夜の正体って何なの?
A.中身は真理亜を孕ませた「悪魔」と同一存在です。ただし、人間の肉体と魂を得ているので、館に施された封印を欺けます。この世に人間として、再誕ことで自由を手にしました。
鏡の中に悪魔化した真理亜を封じ込めたのは、念のための保険です。館には悪魔が一匹、封印されていないと安定しない仕組みとなっています。堕落して悪魔となった真理亜を、代わりに「魔孕の館」に閉じ込めました。
Q.真夜の目的って何なの?
A.真広とイチャつきたい。それだけ。今は兄妹の関係で満足していますが、成長した真夜は性的にも真広を堕とそうとします。真理亜のときとは違って、ガチ恋ムーブで攻めていきます。
Q.大澤と広輔はどういうことになったの?
A.大澤が郵便局のお金を盗んで、それを警察に通報しようとした部下の広輔が、逆恨みで殺された。表向きにはそういうことになっています。
実際はお金を横領してたのが広輔で、それを隠してたのが大澤です。
大澤は事故で死んだ孫を助けるために悪魔と取引しています。ただし、事故は真広が鏡から悪魔を助け出したせいで起こっているのでマッチポンプ。広輔の弱味を握った大澤が、妻の真理亜を悪魔と引き合わせるように誘導したのが、物語の裏側。ちなみに、広輔は妻の浮気相手が大澤だと勘違いしたまま死にました。
同人誌でよくある「夫の不正を隠す代わりに上司が妻をレイプ!」って思ってました。だから、真理亜が浮気を告白しても、非は自分にあると思っていたので、責めることができなかったのです。
Q.赤ワインの原材料、イスラエルのヒンノム谷って何なの?
A.原材料は人間。ヒンノム谷は地獄の別称です。1942年は第二次大戦中、アシュケナジムはGoogle先生が教えてくれます。この年、原材料が手に入るイベントがヨーロッパでありました。
◇ ◇ ◇
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