◇◇◇ ~明治三十七年(一九〇四年)六月二十日~ ◇◇◇
白無垢の花嫁衣裳が脱ぎ散らかされていた。
襖と障子で囲まれた畳の寝間。趣深い和室から、花嫁の荒々しくも色っぽい息遣いが漏れてくる。
「はぁっ……ふっ……! んぅっ……!! あっ……♥︎」
抗いの声こそ上げないが、長身の美女は顔を赤らめて嫌がっている様子だった。一方、新郎の少年は女陰に攻め挿ろうと腕ずくで組み敷き、猛々しい肉欲を露わにしている。
「……っ! はぅ……!!」
男女の肉体が重なり、擦れ合う肌が淫熱を膿む。
裸体の花嫁は、身包みを強引に剥がされたというべきだろう。
初雪色の綿帽子、胡蝶蘭の簪、縁起物の祝儀扇、鳳凰が刺繍された丸帯、汗で濡れた絹布の肌襦袢――真新しい青畳の上に点々と転がっている。
布団に仰臥する花嫁は、豊満に円熟した爆乳を曝け出している。茶黒に染まった乳輪を弄ばれ、日本人離れした巨峰の胸回りが淫らに弾む。弛んだ乳房には、舌で舐められた唾液の軌跡が残っている。
「……っ!」
歯を食いしばる。閉ざされた寝間で花嫁は、唇を結んで堪え忍ぶ。橙色の豆電球で照らされた天井をジッとに見つめて、今夜の契りに耐える覚悟を決める。
花嫁を助けてくれる者は、この屋敷には一人としていないのだ。
新郎の正装も乱雑に脱ぎ置かれていた。黒五つ紋付き羽織袴は背中、両後ろ袖、両胸、計五カ所を白く染め抜いたもの。龍ノ宮の家紋が、その栄華を誇るように浮かび上がっている。
祝言を挙げた男女が同衾し、夫婦の営みに取り掛かろうとしていた。だが、この新郎新婦は複雑な関係にある。なにせ、ほんの少し前まで義弟と兄嫁であった。
「巳夜子って、こんなに弛みきった媚体してたんだ。まぁ、無理もないか……。四十路を超えれば、肌はかつての張りを忘れてしまう」
義弟に娶られてしまった兄嫁は、その美貌を真っ赤に染める。初心な奥ゆかしさからではなく、熟しきった中年女の羞恥心ゆえにだ。
若娘と呼ばれるような年齢ではない。詰られたように、巳夜子は数え年で四十二歳の女だった。
若さ漲る瑞々しい少年に、御下がりの古着と揶揄されても妥当な評価であろう。
豊艶な美貌は健在だが、女盛りだった二十年前に比べると衰えが目立った。大きすぎる爆乳の垂れ具合が、可憐華美の終焉を如実に示している。枯れた桜木とは言わないが、咲き誇りの爛漫がすっかり過ぎ去った葉桜といったところだ。
「昔さ、兄さんから御下がりの古着を貰ったんだ。あの時を思い出したよ」
巳夜子は自分の女陰に向けられた男根の脈動を感じ取り、ついに取り繕っていた冷静さを失った。
「まって……っ! 離れて! 鬼羅人くんっ! やっぱり、あたくし達は……! こんなことをしちゃ……いけっ……。やめっ……!」
一糸まとわぬ姿で仰臥する巳夜子は、交差した両手で阻み、覆いかぶさってくる鬼羅人を押し止める。だが、抗いの振る舞いは撥ね退けられた。
「君付けはもう止めてよ。ボクだってこれからは巳夜子を義姉さんとは呼ばない。祝言を挙げたろ。神前で誓詞を奏上したんだ。ボクらは夫婦になった」
「でっ、でもっ……! 本当に? 本気? あたくしと……するつもり……なの……?」
巳夜子は唾を呑み込み、緊張で乱れた呼吸を整える。そして、普段のような優しい声色を使って、年下の夫に良識的な道徳を諭そうとした。いや、情で訴えかけた。
鬼羅人は十四歳の男児だ。高等小学校を卒業したばかりの青少年。やっと声変わりを済ませて、陰毛が生え始めたばかりの坊ちゃん。髭は生えておらず、背丈や体格も巳夜子に劣る。
「元服したからボクは大人だ。法律上においても、結婚したら未成年の年齢でも成人と見做す。ボクは龍ノ宮家の戸主になった。結婚は家同士が決めたこと。ボクと巳夜子は取り決めを守らなきゃいけない。そういう立場にあるんだ」
「あたくし達の結婚は……。宗衛門お義父様のご遺言で無理やり……」
義父の遺言で定められた強引な婚姻。家と家の繋がりを維持するための定めに、巳夜子と鬼羅人は従わなければならなかった。自由恋愛が許されていない時代であった。
「無理やりが嫌ってこと? 華族の結婚ってそういうものでしょ。浮ついた庶民の間じゃ、恋愛結婚が流行ってるらしいけど、普通の縁談は家同士が決める。巳夜子って聡次兄さんと結婚したのは見合いだったじゃん」
龍ノ宮家の先代当主・宗衛門には息子が三人いた。長男・聡次、次男・直斗、三男・鬼羅人の男三兄弟、他に子供はいなかった。
「聡次兄さんと直斗兄さんは、日露戦争で露助に殺されちまった。龍ノ宮家には跡継ぎがいる。忌明けの未亡人には酷な再婚だけど、家の血を継ぐ女と男、果たすべき義務だろ」
時は明治三十七年六月二十日、大日本帝国は国家存亡を懸けた大戦の真っ只中にあった。
巳夜子は日露戦争で戦死した聡次の妻だった。
南下政策を進めるロシア帝国は満州に進出、これを受けて大日本帝国は二月十日に宣戦を布告。 戦争勃発後、初となる本格的陸戦は五月一日、鴨緑江で起きた。
大日本帝国は最初の会戦で勝利したが、約一〇〇〇人の死傷者が出た。その中に砲撃が直撃し、甚大な損害を被った部隊があったという。
大陸の戦場に赴き、名誉の戦死を遂げた兵士達。英霊となった戦死者に「聡次」の名があった。運の悪いことに、同じ部隊に所属していた直斗も戦死した。
巳夜子は夫を喪い、鬼羅人は兄達を亡くした。
聡次の戦没から五十日後、忌服を終えると同時に義姉と義弟の関係が崩れ去った。未亡人となった兄嫁を弟が娶る貰い婚。四十二歳の美熟女は、十四歳の男児と祝言を挙げた。
漆黒の喪服を脱ぎ、白無垢の花嫁衣裳に衣替えした。
明治時代の価値観であっても、巳夜子と鬼羅人は年齢差が開き過ぎている。だが、これには家同士の事情がある。
巳夜子の旧姓は紅鶴。由緒ある子爵家の家柄だ。龍ノ宮家は財力こそあるが、成り上がりの富豪でしかなく、華族の血筋を欲していた。紅鶴家は高貴な一族だったが、経済的には困窮しており、政略結婚の利害が一致した。
聡次と巳夜子が夫婦で在り続ければ、此度の凶事は発生しなかった。当主の宗衛門が今際の際に書き記した遺言で、鬼羅人の巳夜子の再婚が定められていた。
「龍ノ宮家は紅鶴家の女に子供を産んで欲しい。爵位持ちの華族に成り上がりたいんだ。それが父上の悲願だった。落ち目の紅鶴家だってこのままじゃ、爵位を返上しなきゃならないだろ。名誉を維持できない貧乏人は華族を名乗れない」
鬼羅人は分かりきった御家の事情を言い聞かせる。風に消えそうな、か細い抵抗ながらも揺るがぬ拒絶を示す巳夜子を押さえ付けた。
閉ざされた太腿の正門を抉じ開け、縮れた恥毛が茂った女陰に男根を宛がう。幾度か腰を動かすが、亀頭の狙いは逸れてしまった。
女体の構造はよく知っている。だが、鬼羅人は未経験の童貞だった。純潔の新郎に対し、未亡人の新婦は性交を遂げた経験がある。
巳夜子と聡次は愛し合う男女だった。二十二年の幸せで満ち足りた夫婦生活で、夜の営みにも励んだ。そして、巳夜子の胎は子を孕み、最愛の一人息子・辰彦を産んでいた。
巳夜子は十四歳の息子を持つ母親だった。世継ぎが必要だとしても、龍ノ宮家には立派な男子がいる。しかしながら、巳夜子と鬼羅人は子作りを強いられる。
聡次と巳夜子の間に生まれた辰彦は病弱だった。幼少期から入退院を繰り返す虚弱体質者。長生きできる健康な子供ではなかった。同い年の鬼羅人に比べて発育が遅く、学校にも通えていない。
辰彦に期待をかけられないからこそ、鬼羅人はその母親である巳夜子を抱く。嫌がる経産婦のオマンコにオチンポを捩じ挿す。
「動くな。じっとしてろ。巳夜子。お前はボクの嫁なんだぞ」
怒鳴りつけられた巳夜子は身体を硬直させる。その瞬間、我慢汁で濡れた肉槍がついに狙いを貫く。長兄が使い古した膣穴で末弟は童貞を卒業した。
――ぢゅぷぅっ♥︎
(ねじこまれてしまった……っ! あぁ……! もう……抗いきれない……! こんな年下の青少年と……! 淫らに交わってしまう!)
十四年前に息子が通った産道は、十四歳の再婚相手を歓待する。戦死した夫を思慕し、病弱な息子を愛護する慈母であろうと、四十路を過ぎた成熟した淑女だったとしても、牝の性は消え衰えていなかった。
「あぁぅっ! はあうんんぅっ……!」
「巳夜子の膣襞が絡みついてくる。熱くて……! ぬめぬめしてる……! これが女の肉壺なんだ……! 狭苦しい。もっと、もっと奥に挿れたいっ!」
「ひぅっ♥︎ んぁっ♥︎ あんっ♥︎ おぉっ♥︎ お゛っぉ♥︎ お゛ぉぉっ♥︎」
淫らに悶え苦しみ、背徳に咽ぶ喘ぎが再婚初夜の帳に溶けた。
(子宮を突いてくるっ! そんな風に掘り進められたらぁっ♥︎)
巳夜子の火照った身体は反射的に両脚を屈曲させて、鬼羅人の求愛を受け入れてしまった。
(あぁ、なんてことっ……! 鬼羅人くんの魔羅が胎に入ってくるっ……!! 本当に抱かれてしまったわ……! あぁ! あぁ! あぁぁっ! あたくしはふしだらな女だわ……! こんなの駄目ですのにぃ……! 身体が気持ち良くなってる♥︎ 聡次さんっ! 聡次さんっ!! ごめんなさい! ごめんなさいっ! 聡次さんっ……! 聡次さんの弟に抱かれてしまった……! 今夜から鬼羅人くんの……っ! 鬼羅人さんのォ……‼ お嫁さんになってしまいますっ!)
巳夜子の両手が布団の敷布を掻き毟る。耐え難い恥辱に歯を食いしばる反面、子宮の疼きが発露させた快楽に酔わされていた。
(我慢できないっ! 感じてしまうっ……♥︎)
熟母の胎は情けなくも、息子と同年齢の男児に抱かれて官能的な幸福を味わう。
(許して……っ! 聡次さん……‼ 辰彦を治療費を龍ノ宮家から貰い続けるには……これしか……これ以外に方法が無かったのォ……‼ おおぉっ♥︎ んぉっ♥︎)
正常位で交わる巳夜子の腰が引っ張り上げられる。腹回りの括れを掴んだ鬼羅人は、雄々しい力強さで巳夜子の下半身を抱き込む。巨尻が布団から浮き上がり、オチンポへと引き寄せられた。
「んふぃっ♥︎ ひィ……♥︎ あぁっ……! いっ……! 鬼羅人さぁんっ♥︎ らめぇっ……!」
体格では巳夜子が勝っているのに、男児の筋肉で圧倒される。十四歳の未成年といえど、元服を済ませた立派な日本男児。未亡人との力比べで負けることはない。
「生娘じゃないんだからさ。姉女房らしくできない? もっと動いてよ。聡次兄さんとまぐわってた時みたいにさ」
「そっ、そんなこと言われましても……。困りますわ……!」
「ボクと巳夜子の夫婦仲が良くないとさ、辰彦くんの治療費が出ないよ」
「……っ!」
脅し文句に聞こえるが、実は違う。真摯な表情を作り、鬼羅人の動きは止まっていた。
「父上が死んじまった今、龍ノ宮家を仕切ってるのは母ちゃんだ。……分かってるだろ。母ちゃんは病弱な辰彦くんを嫌ってる。いや、その程度の生半可な感情じゃないか。むしろ憎んでいるんだ。ボクらでご機嫌を取っておかないと、辰彦くんの立場はかなり危うい」
同い年の叔父と甥は友人だった。
辰彦が入院している療養所に鬼羅人は足繁く通っている。龍ノ宮家の当主を争う者同士だったが、不可思議な友情が二人の間にはあった。
そのことは巳夜子も承知している。
「ボクね。友達がいないんだ。親友の辰彦くんには長生きしてほしい。巳夜子も母親なんだから協力して」
友情に対して鬼羅人は誠実だった。
「これが息子を助けるため……だというの……?」
「他に良い方法がある? 困窮してる紅鶴家の支援は期待できない」
「確かにそうですけれど……!」
「じゃあ、お金を工面できるのは誰? 治療にはお金が必要だ」
「……はい。鬼羅人さんの仰る通りですわ」
「聡次兄さんと直斗兄さんは死んじゃった。耄碌してた父上は遺言書を残して逝っちまった。今、ボクの母ちゃんを止められる人はいない。だから、家同士の都合通りに動くしかない。幸いにもさ、ボクと巳夜子も利害が一致する」
「あたくしが身体を捧げれば……。鬼羅人さんは辰彦を守ってくれるの?」
「守ってあげる。たった一人の親友だもん。それに今はボクの義息だ」
「お願い事が一つ……。鬼羅人さんの妻としての御頼み申し上げます。辰彦には全て秘密にしてください」
「ボクと巳夜子が結婚したことを黙ってればいいのかな?」
「はい。夫婦の契りを交わし、このような関係に至った卑しい事実は隠し通したいのです。知ってほしくない。我が子の前では貞淑な未亡人で……清らかな母親でありたい……。これは身勝手で……とても浅ましい愚母の保身です。けれど、お約束いただけるなら、御家を守るため、亭主に尽くす妻として励みますわ」
「――いいよ。約束する」
鬼羅人は巳夜子の爆乳を鷲掴み、挿入状態の男根をさらに硬く反り勃たせた。
「ありがとうございます」
妻として夫に感謝を述べる。前夫が戦場で斃れるまで、息子と同世代の義弟でしかなかった幼い少年に服従する。
「最初から辰彦くんには言わないつもりだった。――じゃあ、続けていい? 寸止めで我慢するの辛いんだけど」
「はい……。抱いてください。あたくしの新しい旦那様……! 今宵、包み隠さず、あたくしの痴態をお見せします! どうか、口外なさいませぬよう……。あたくしと鬼羅人さんだけの密やかな契りに……♥︎ んぁっ……♥︎ あぁんっ♥︎ んぅぅうっ♥︎ あぁっ♥︎」
「もちろん。辰彦には内緒だ。親の性行為を見たらショックを受けてしまう。でも、靖国に祀られた聡次兄さんには見せつけてやりたいかな。ボクの嫁になった義姉さんの晴れ姿をさ……!」
「あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ 鬼羅人さぁんっ♥︎ もっと優しくぅっ、ゆっくりぃ……♥︎ んぉっ♥︎ んのぉぉんっ♥︎」
「誤魔化すな。ボクに抱かれて、悦んでるくせにっ!」
「ん゛ぅんぁっ♥︎ あ゛ぁ~! んっ! んっ! んっ! んひぃ♥︎ んゅっ♥︎ んっ♥︎ んぅぅー! ゆっくりぃっ♥︎ もっと抑えて……! そんなに激しくしないでぇっ……♥︎ 腰が抜けぢゃうわぁっ……♥︎」
「ボクの本性も晒してあげる。年の離れた兄さん達とは不仲だった。それは巳夜子も知ってたよね? 聡次兄さんと直斗兄さんが戦争で死んで、悲しくないけど、嬉しくもない。だけど、ボクは他人のモノが欲しい!」
「あぁっ♥︎ んぁっ♥︎」
「盗みたくなる。奪い取りたい。生来の性分なんだ。だから、一番大切だった兄嫁と家督をいただくッ!」
「あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ 鬼羅人さんっ……♥︎ ずっとそんなことぉっ……♥︎」
「辰彦くんと親友になれたのは、きっと盗みたいモノがないからだ。不幸せな辰彦くんは何も持ってない。ボクが持ってるモノを辰彦くんは何一つ持っていない。――だから、すっごく安心する。幸せを感じるんだ」
「んぅっ♥︎ んんぅっ♥︎ あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ あっ♥︎ んんっぁ♥︎ あっあぁうぅっ♥︎ 来るっ♥︎ 来ちゃうっ♥︎ おぉっ♥︎ んぉっ♥︎ あ゛ぁっああああああああぁっーー♥︎」
「出すぞっ! 巳夜子っ! イけっ! イっちゃえ! ボクの子種を注いでやる! 孕んでしまえっ‼」
反り返った上半身から豊満に実った爆乳が垂れる。円熟した巳夜子の媚肉は張りを失っている。柔らかくなった乳房は重力に惜敗していた。
(あっ♥︎ あぁ……♥︎ なんてことかしら……♥︎ 子種を注がれて絶頂してしまったわ……♥︎ 義弟だった男の子に……♥︎ 荒々しく抱かれて……♥︎ 筆下ろしで注がれた精子が子宮を満たしていく……♥︎ 封じ込めていたあたくしの……♥︎ ふしだらな本性を暴かれてしまった……♥︎)
引き上げられていた巳夜子の下半身が布団に降着する。膣内から溢れ流れる精液が飛び散った。
「はぁはぁはぁ……♥︎ んぅっ……♥︎ はぁはぁっ……♥︎ はぁ~はぁ~ふぅっ~♥︎ はぅっ……♥︎」
呼吸を整えている間も鬼羅人は身体を弄ってくる。
「どうだった? 巳夜子? ボクの童貞は美味しかった?」
「はぁはぁ♥︎ 本当に童貞だったの? 初めてとは思えなかったわ……♥︎」
「へえ。演技じゃなくて、本気で悦んでくれてたんだ。もっと感想を聞かせてよ」
「恥ずかしいですわ……」
「ボクらは夫婦なんだけど? 隠し事は禁止。久しぶりの性交が堪らなく嬉しかったんだろ?」
「え、ええ……♥︎ そうよ。年甲斐もなく絶頂してしまったわ。射精の勢いが強い……。たくさん……出したのですね……。本当に若いんだから……。こんなに……♥︎」
孕ませの本気度が伝わってくる放精だった。巳夜子の子宮では幾千幾億匹の精子が泳いでいる。最奥に眠る赤子の卵を探し回っていた。
「一人遊びよりは気持ち良くなれた?」
鬼羅人は巳夜子の陰核を摩った。まるで女が自らを慰めるような自慰の手つきで刺激を与えてくる。
「……え? はゆぅんっ♥︎」
「聡次兄さんが出征した後、寝間でこっそり自慰をしてただよね? ボク、知ってる。辰彦くんが産まれた穴を、こんな感じに弄り倒してたんだろ」
親友が育った子宮に種付けしながら、鬼羅人は巳夜子にオナニーとセックスの比較評価を訊ねた。
「もう……。うそ……! どうしてなのよ。なんで……知って……! いつから……!?」
「お屋敷で働く女中達がね、巳夜子が夜な夜な一人で泣いてる噂してた。だから、覗いてみた。そしたらさ、両指で女陰を擦って喘いでるのを見ちゃった」
「……っ!」
「涙は流してたのかな? 大陸に出征した聡次兄さんが恋しかったんだ」
「覗きなんて、趣味が悪いですわよ……。日本男児にあるまじき行為です」
拗ねた巳夜子は顔を背けた。
「閨事が好きなのは知ってる。ボクにもちゃんとやってよ。聡次兄さんは死んだ。今はボクが巳夜子の夫だ。真剣な男なんだよ。夫婦が営む本気の子作りがしたい」
「鬼羅人さん。四十二歳の中年女がまだ子供を産めると思っているのですか?」
「ボクは十四歳だ。夫婦の年齢を足し算して、二人で割れば二十八歳になる。これって平均的な夫婦なんじゃないの? ボク達ならまだ子供が出来るかもよ。少なくとも龍ノ宮家と紅鶴家は世継ぎを期待してる」
茶黒の乳輪を咲かせた爆乳が、指先で突かれて弾んでいる。
「――まだ続けるからな。巳夜子」
若人の精力はたった一度の射精で萎みはしない。愛液が滲み湧く膣内で脈動を強めている。新しい夫を手に入れた未亡人は、荒れ狂う肉欲に抗えず、誘いに応じてしまう。
「鬼羅人さんの魔羅はまだ壮健のようでございますね」
「巳夜子の膣も、やる気ある締まり具合だ」
「次は後背位でまぐあいましょう……。後ろから突いてください……」
四つ這いで巨尻を上げた巳夜子は、白濁液が付着した陰唇をヒクつかせて挿入を媚う。つい先日まで夫を亡くし、悲嘆に暮れていた兄嫁が桃色の臀部を揺らし、淫靡な姿で誘惑してくる。
鬼羅人は獲物を食らう餓獣の如く、巳夜子の背後に獅噛みついた。
体格差があるせいで、母に負ぶさって戯れつく男児のようにも見える。だが、真っ裸の男女が肌を合わせて、露出させた互いの生殖器を結び、淫艶たる交わりを果たす痴態は、二人の関係を一目瞭然で物語る。
寝床に敷かれた一枚の布団。周囲に散乱する白無垢の花嫁衣裳と紋付きの羽織袴。戦死した兄から御下がりで貰った嫁を、弟は遠慮なく愛す。在りし日の夫婦が子を求めて同衾し、夜の営みに励んでいたのように打ち付け合う。
「巳夜子は牝牛みたいな姿勢で犯されたいの?」
「はいっ……♥︎ その通りでございますっ♥︎ 後背位での性交が妊娠しやすいと婦人誌で読みましたわ……♥︎」
「へえ。そっか。デッカいなぁ。ほん、牛みたい。マジで巨尻。辰彦くん胎に仕込まれた夜も、こんな恥ずかしい体勢でお尻を振ってたんだ?」
「聡次さんとはいつも、こうやってぇ♥︎ 子作りをォん……♥︎ んんぅっ♥︎ んっ♥︎ んぅっ♥︎ あんんっ♥︎ んひぃっ! 何をなさるのォ……♥︎ お尻を引っ叩くなんて……!」
「巳夜子はまだ自覚が足りてない。僕の嫁なんだ。聡次さんじゃなくて、お義兄様って呼ぶんだよ。故人だからって、義理の兄を馴れ馴れしく呼ぶのは駄目だっ!」
「んひぃっ♥︎ んぁっ♥︎ はぃひぃ♥︎」
「弛みきった年増女のくせに胎は若い。膣圧がぎゅうぎゅう押し寄せてくる。男根から精子を搾り取りたいんだぁ? ボクらの大切な息子には黙っててあげるからさ、もっともっと魅てみなって。一人遊びの時はもっと凄かった」
「あ、あれは……♥︎ 独りだと…寂しくて……。お酒を飲んでたから……そのせいでぇ……♥︎」
「もう孤独じゃない。だって、巳夜子はボクと結婚したんだ。もう嘘偽りで繕うな! 生涯の伴侶に本性を曝け出せ……っ!」
連撃の刺突で子宮口を攻め上げる。発情したオス犬のように腰を振り続ける。獰猛な肉欲をぶつけられて、巳夜子もメス犬のように甲高い嬌声を吼える。
「あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ はいっ♥︎ 旦那様の魔羅が好きっ♥︎ 膣穴を掻き混ぜられて、子宮を突かれるのが、大好きぃ……♥︎ 世継ぎを作るために聡次様と頑張りましたわぁ♥︎ だから、あたくしは淫事が好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ こんなァ♥︎ いぐっ♥︎ イっぎゅうっ~~♥︎ み゛っともない歳になってもぉっ……♥︎ 好きっ♥︎ 中毒になっちゃったのぉっ♥︎ お゛っ♥︎ んほお゛ぉっ……♥︎」
「イけっ! 巳夜子! ボクの魔羅で慰めてやる! すぐ聡次兄さんだって忘れる! 今すぐに、ボクだけの女になれ!」
「いぃっ♥︎ それは……っ♥︎ いぃっ♥︎ やぁっ……♥︎」
「駄目。許さない。忘れてしまえ! ボクと巳夜子はこんなに身体の相性がいい。ボクだけの妻になれっ! 八百万の神々に誓うんだ! 誓え! 巳夜子!」
「あぁっ♥︎ んひ! ふひぃ! んぁっ……♥︎」
「可哀そうな辰彦だって、ボクなら守ってあげられる。誓い合った本物の夫婦なら。――龍ノ宮家に居続けるなら後ろ盾が欲しいだろ?」
刺止めの囁きで巳夜子は観念する。
(あぁっ♥︎ もう、わたしくはダメになっちゃう……♥︎)
両目から涙が零れた。悲しみや悔しさによる号泣ではない。巳夜子の身体は男を求めていた。感涙の雫を流しているのだ。
「わたくし♥︎ 巳夜子は♥︎ 良き妻として♥︎ お家を守り♥︎ 日々の務めを果たし♥︎ 新たな旦那様と共に歩むこと♥︎ 八百万の神々にお誓い申し上げます♥︎ ――あたくしは鬼羅人さんだけの妻ですぅっ♥︎」
天地全ての神々に誓った。
その中には祖国を守るために散った英霊も含まれるはずだ。日露戦争で戦死した聡次の御霊に離縁を告げる。
(ごめんなさい。聡次さん……! 信じられないでしょうけれど、鬼羅人さんと結婚してしまったわ。辰彦のため……。御家のために……! そして、己の肉欲に負けて……、誓いを立ててしまったわ……。ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! 寂しさに耐えきれなかった卑しいっ、汚らしい、卑劣な・あたくしをォ、どうかお許しになってェ……! くるっ♥︎ きちゃうわ♥︎ あ゛っ♥︎ いっ♥︎ いぐぅっ♥︎ いっちゃう♥︎ もう我慢できないぃっ♥︎ いかされるっ♥︎ いっぢゃううぅっ♥︎)
巳夜子は啼いていた。龍ノ宮家の若君に抱かれる悦びで、未亡人は淫猥に咽ぶ。
「いぐぅっ♥︎ いぐぅうう~~っ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ あぁ♥︎ そこっ♥︎ ぐちゃぐちゃにぃっ♥︎ もっちぉっ♥︎ 感じたいぃっ♥︎ きもぢよくなりたいのぉ♥︎ いぐゅ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いぐっ♥︎ いっぢゃうぅうっ♥︎ 新しい旦那様の魔羅でいっぐううぅっ~~♥︎ いっぎぃましゅぅうぅううっ~~♥︎」
もはや未亡人の貌ではない。持て余した性欲を放ち、淫熟の美妻に堕ちていく。
「おぉっ♥︎ んおっ♥︎ いぢゃったぁ……♥︎ はふっ♥︎ あぁはぁ……♥︎ あ゛ぁ~~♥︎」
「ははっ! 間抜けで不様なアクメ顔……。ちゃんとボクの精子を受け止めろよ。龍ノ宮家の子を早く孕め。それが嫁の責任だ」
熟女の肉壺は少年の孕ませの胤汁で満たされていった。
――龍ノ宮家の子宝を孕むために。

◇◇◇ ~明治三十七年(一九〇四年)五月某日~ ◇◇◇
巳夜子と鬼羅人の再婚が運命付けられるまでの経緯には、日露間で勃発した戦争が深く関係していた。
祝言の淫夜から時を遡ること、およそ五十日前の出来事である。
「夫が名誉の戦死を遂げた」と巳夜子は知らされた。二月十日に戦端が開かれてからおよそ三カ月後、戦地に赴いた最愛の夫は帰らぬ人となり、巳夜子は戦災未亡人になった。
――当時、日露戦争の戦況は熾烈を極めていた。
欧米列強の一角たるロシア帝国の南下に対し、極東アジアの小国日本が盾突く戦争である。海外の大国達は侮蔑的に冷笑していた。人種差別全盛の時代、黄色人が白人に勝てるはずがない。
大日本帝国にとっては自国の存亡をかけた大戦争であった。戦力を搔き集め、健康な男子を徴兵し、一〇〇万人超の軍勢を大陸に送り込んだ。
そして、大きな損害を被りつつも、日本軍は勝利を重ねていく。新聞では「劇的な大勝利」と晴れ晴れしい大見出しが並ぶ。下馬評をひっくり返し、大日本帝国の優勢で戦況は進む。だが、華々しい勝利への道は、兵士の屍で舗装されていた。
巳夜子が愛した夫・龍ノ宮聡次は、出征の日に「帰ってくる」と約束してくれなかった。
聡次は今年で四十二歳、召集年齢の対象外だったが、龍ノ宮家の名誉と世間体を守るため、自ら従軍を志願した。
夫の身を案ずる妻は手紙を送り、夫も妻を安心させようと返信を欠かさなかった。しかし、五月になると聡次からの手紙がぷっつりと途絶えた。
海を隔てた向こう側の戦地にいるのだ。そういうこともあるだろう、と巳夜子は楽観的な思考に努めた。だが、最悪の形で、陸軍省から答え合わせの紙切れが届いた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
死亡告知書(公報)
御遺族様 妻・巳夜子殿
日本陸軍第一軍、歩兵第五旅団、上等兵・龍ノ宮聡次は、鴨緑江会戦に於て明治三十七年五月一日、戦死いたしましたので、ここに通知いたします。
明治三十七年五月二十一日 長野県知事
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
何かの間違いではないか。
そんな願望的な疑いに縋りつき、ぼろぼろと涙を流した。巳夜子が聡次と結婚したのは二十二年前。夫と同い年の巳夜子も四十二歳になる。
人生のおよそ半分を分かち合った伴侶に先立たれてしまった。だが、折れるわけにはいかなかった。夫は名誉の戦死を遂げた。世間体を考えれば悲しみ続けるのは、亡夫の名誉を穢すことになる。
そして巳夜子には守らなければならない大切な存在があった。巳夜子と聡次の間には十四歳の息子・辰彦がいる。
生まれつき病弱な辰彦は、幼少期から入退院を繰り返し、肺炎を患って危篤状態に陥ったこともあった。現在も学校を休学し、療養所で長期療養中だった。
幸いにして龍ノ宮家は裕福な富豪だ。日本が敗戦すればどうなるかは分からないものの、戦時下にあっても不自由なく暮らしている。だが、名士の家だからこそ、義務も発生する。
男子であれば軍に志願しなければ、臆病者や軟弱者と嘲笑される。大金持ちだからこそ、体面を何よりも気にする。
軍へ志願者した龍ノ宮家の男子は、聡次のほかにもいる。聡次の弟で、巳夜子からすれば義弟にあたる直斗も出征した。
悲運だったのは聡次と直斗の兄弟が、同じ日に、同じ戦場で、戦死したことだ。
龍ノ宮家に届いた戦死公報は二通だった。
当主・宗衛門が味わった悲哀はあまりにも大きかった。長男と次男、二人の跡取り息子を亡くした心痛、患っていた病の悪化も相まって寝たきりの状態になり、およそ十日後に息絶えてしまった。
現在、龍ノ宮家の本家筋に残された男子は、たったの二人しかいない。
十四歳の辰彦、聡次と巳夜子の息子である。しかし、病弱で入退院を繰り返し、体調は年々悪化の一途を辿っている。
そしてもう一人、同じく十四歳の鬼羅人だ。当主であった宗衛門が正妻の芙美に産ませた最後の子供。三月に高等小学校を卒業したばかりの意気軒昂な青少年である。
宗衛門が亡くなる直前、芙美を中心とする取り巻き達は遺言を書かせた。書状の冒頭は後継者の指名から始まっている。
――龍ノ宮家の家督および全財産は三男・鬼羅人に相続させる。
宗衛門の遺言において、初孫の辰彦はあからさまに蔑ろにされていた。
これにも事情がある。そもそも辰彦の父親である聡次は、宗衛門が愛人の芸者に産ませた庶子だった。正妻の芙美は、自分と血が繋がらない聡次を息子とは認めず、虚弱な辰彦も穀潰しの孫と疎んでいた。
聡次に嫁いだ巳夜子の立場も非常に弱いものだった。けれども、長期入院中の辰彦を守るためには、龍ノ宮家の金銭的支援が不可欠だ。
「あたくしの息子に龍ノ宮家の家督を寄越せ」と欲張るつもりはない。当主の座は鬼羅人に譲る。病に苦しむ愛息の命を繋ぎとめるお金さえ恵んでくれれば、どんなに蔑まれた立場に置かれても構わなかった。
聡次、直斗、宗衛門の三人を弔う合同葬で巳夜子は衝撃的な事実を伝えられ、驚愕でよろめいてしまった。
宗衛門が綴った遺言書の半分は予想がついていたので、さして驚く内容ではない。遺言書を作文をしたのは、溺愛する鬼羅人を当主に担ぎたい芙美なのだ。だが、辰彦が生き永らえる権利だけは掴む。母親として巳夜子は誓っていた。
もちろん、無策では挑まない。援軍を実家から呼び寄せている。龍ノ宮家の合同葬には巳夜子の両親も参列していた。
巳夜子の旧姓を紅鶴という。
公家に連なる由緒正しい子爵家であった。龍ノ宮家は富豪の財閥といえど、所詮は明治維新後に成り上がった新興の金持ち。いわゆる成金だった。
一方、紅鶴家は経済的に困窮していたが、爵位と華族の身分だけは手放さなかった。過去の栄華にしがみついている旧家であった。
そもそも聡次と巳夜子の婚姻は、龍ノ宮家と紅鶴家の政略結婚に基づくものだ。辰彦を守らなければ、紅鶴家としても都合が悪い。
巳夜子は実家の紅鶴家を後ろ盾に、愛人の血筋を抹消しようとしてくる義母に対抗する腹積もりだった。
後になって分かることであるが、巳夜子の魂胆は浅かった。息子を愛する愛母の深い家族愛は、お家の存続をかけた姦計淫謀で踏み躙られてしまう。
「お父様! これは一体……!? なぜ、そんなことになるのですか!? お母様もですわ! 納得のいく説明を……。まさか最初から奥方様と共謀していたのですか!?」
遺産相続の話し合いが終わった後、巳夜子は廊下で血の繋がった両親を捕まえ、鬼の形相で問い詰めていた。
「頼む! 頼むから分かってくれ。巳夜子……! 龍ノ宮家と紅鶴家の繋がりを保つためだ! そのためにお前を嫁がせたんだぞ!」
父親は初めこそ申し訳なさそうにしていたが、次第に苛立ちを強め、語気を荒げて言い返してきた。
「お願いよ。巳夜子……。こうでもしないと龍ノ宮家からの援助は続かないわ。芙美さんと喧嘩をしたら、きっと……。辰彦の治療費だって打ち切られてしまう。それだけは嫌なのでしょう? だったら、お話を受けるべきですわよ」
母は仲裁する素振りで巳夜子を諫める。
巳夜子は腹立たしかった。自分を育ててくれた父母だが、華族の地位に恋着するばかりで、温かな本物の愛情を一欠けらも感じられない。
辰彦の病気が発覚した時もそうだった。初孫が産まれたというのに、「虚弱体質だ」と愚痴り、ちっとも喜んでくれなかった。
「こんなのって普通じゃない……! 異常だわ!!」
「巳夜子! 滅多なことを言うな! ここは龍ノ宮家のお屋敷なんだぞ……。いいか、今は戦時なんだ。兄の嫁を弟が引き受ける〈貰い婚〉は、旧家の家柄ならよくある話だ。……聡次のことは残念だった。だが、彼は御国を守るために戦地で散った。日本男児の責任は戦うことだ」
父親に対して巳夜子は冷酷な嘲笑を向けた。
「……なんだ。その顔は」
「いいえ。あたくしは何も思っていませんわ。お父様」
凍てつくような静けさが一瞬、この場を支配した。戦災未亡人の視線に明白な侮蔑が込められている。日本男児の責任を偉そうに説いているが、この男は子爵の地位にありながら、一度だって戦地に赴いていない。
他の模範的な華族が軍に加わり、栄達のために聡次や直斗のような富裕層の生まれも前線で戦った。己の意思で戦場に歩を進めた。ここにいる父親は「もう老境だから」と言い訳する。だが、若かりし頃だって危険は避け続けてきた男だ。仮に若返っても何かと理由をつけて軍務から逃げるだろう。
「全てはお家を存続させるため、紅鶴家のためよ。巳夜子……! 貴方も大人になりなさい。芙美さんだって私怨を堪えて、龍ノ宮家のために尽くそうとしている。日本国の女とはそういうものよ」
「お母様。つまり、日本国の女とはどういうものだと仰るのかしら? ぜひご見識をお聞かせくださいませ」
慇懃無礼に巳夜子は問い返した。すると、母親は恥じる顔を一切見せず、世迷言を堂々と言ってのけた。
「――女は子供を産むための存在よ。殿方が命懸けで戦うなら、あたくし達は子供を産み育てるのが責任。鬼羅人くんと再婚して、今度こそ健康な子供を産みなさい。せっかくの良縁を断ち切ってはならないわ」
先代当主・宗衛門の遺書には、巳夜子と鬼羅人を夫婦にすると記してあった。
四十二歳の戦災未亡人、成人どころか元服すらしていない少年。再婚の脚本を描いた者達は何ら恥じていない。兄が死んだら、弟が兄嫁を娶る。
武士社会では〈貰い婚〉という風習があった。家同士の繋がりを強めるため、ここまで倫理を棄てられるのかと、巳夜子は恐怖した。
「ありえない! できるわけ……ない……でしょうっ……! だって……!」
どこか遠くに逃げたくなった巳夜子は窓の向こう側、夜の庭園に視線を流した。
辰彦の治療でお金がいる。だが、資金を工面する方法が思い浮かばない。入院費の問題さえ解決すれば家を出ていた。
「辰彦はこれから先、どうなるか分からないのよ。現実をちゃんと見なさい。巳夜子!」
「そうだぞ。巳夜子! お前はまだ産める‼ 俺らで芙美さんとは話を付ける! ちゃんと取り成しておく! 辰彦の医療費だって龍ノ宮家が出してくれなきゃ、どうにもならないんだぞ!!」
「お家の都合だけで……。鬼羅人くんだって兄を亡くしているのよ。そして、無理やり兄嫁と結婚させられて、幸せになれると思う? これが本当に正しいことだっているの……?」
「巳夜子! お前! 親同士が決めたことだぞ!鬼羅人くんを見習え! お前のように不満を言っていたか!?」
「……親の命令に子は逆らえないってことでしょうね。あたくしみたいなオバさんと結婚を強要されるのは絶対に嫌ですもの」
「なぁ! 巳夜子……! お願いだ。こうして頼んでいる俺達だって辛いんだ。むしろ子より、親のほうが辛い立場だ……。分からんだろうな。だが、親は子の幸せを願うもんなんだよ!! 頼む! この通りだ! 龍ノ宮家と紅鶴家のために……! 鬼羅人くんと結婚するんだ!」
意味不明の理論を捲くし立て、父親が廊下で土下座する。それに続いて、母親も頭を床に擦りつけた。腹立たしいが、巳夜子は納得した。この男と女、父母の穢れた血が自身を構成している。だから、こうして耐え難い苦痛を受忍してしまう。
母親は息子を置いて逃げられない。
「――もういい! 分かりましたわ。最初からあたくしに選択肢ないのですから。……ただし! 辰彦に最高の治療を受けさせることが条件! それだけは忘れないでちょうだい!」
巳夜子は龍ノ宮家と女として、土下座する父母に言い付ける。
「それともう一つ! 紅鶴家の人間に言っておくことがあります。子供は諦めなさい! 今さらあたくしが産めるわけないでしょう。年齢が年齢だし、この結婚は形だけのもの。鬼羅人くんだって、きっとそう思ってるはずですわ」
喪が明けるやいなや、龍ノ宮家で鬼羅人の元服式が厳かに執り行われた。花嫁の白無垢で着飾った巳夜子は神前で誓いを立て、鬼羅人と夫婦になった。
明治三十七年六月二十日の元服式。同時に内々で鬼羅人と巳夜子の祝言も挙がった。美熟の兄嫁と、幼年の義弟が結ばれる。
華族の紅鶴家は婚姻届けを宮内省に提出し、二人の政略結婚が戸籍上においても認められた。龍ノ宮家が多額の寄付をしていたこと、日露戦争で戦死者を出していたことが考慮され、爵位目当ての結婚が許容された。
今までは義弟と兄嫁、今宵からは夫と妻。
新婚初夜の男女が寝間で同衾する。
それはごく当たり前のことだ。
猛り攻める餓鬼オチンポで、淑女を気取る熟れた経産婦オマンコに胤付けする。
それもごく当たり前のことだ。
巳夜子は鬼羅人の子を孕む。
――御齢四十三の貴婦人はまだ産めるのだ。
◇◇◇ ~明治三十七年(一九〇四年)六月二十日~ ◇◇◇
巳夜子の追憶が途切れる。婚儀を挙げた夜の逢瀬。息子と同い年の少年に抱かれて、熟女は絶頂を迎える。
巳夜子は溜め込んでいた卑しい性欲を全て解き放った。
(ふっ♥︎ あぁっ♥︎ ひぃぎぃっ♥︎ ああぁ~♥︎ ぞくぞくと、血管をっ、神経をっ、体中を快楽が駆け巡る♥︎ あ゛ぁぁあぁあああぁ~~っ♥︎ 旦那様の魔羅♥︎ きもぢぃいぃですわぁっ……♥︎)
聡次が出征してから発散できずにいた性衝動。自慰では消せなかった渇きは、新しい旦那との激しい逢瀬で癒される。
(んぅっ♥︎ あぁっ……♥︎ 子宮に溜まった精液が揺れているわ。これで何回目の射精なのかしら? すごい精力っ……! 淡白だった聡次さんよりも、貪欲にっ、激しくっ、雄々しいっ♥︎ まるで底無し♥︎ あぁ♥︎ 腰を揺らしてしまう。欲望のままにィ……♥︎)
巳夜子は膣内に植え付けられた子種の熱を感じ取る。
(鬼羅人さんの精子で子宮が埋め尽くされていく……。わたくしを孕ませようと、硬く膨らんだ亀頭が突いてくるぅっ♥︎ 抑えていた情欲をわたくしの刺激して……っ♥︎ 女の本性が暴かれてしまうっ♥︎ 肉体が孕みたがっている……♥︎ こんなみっともない歳でっ♥︎ 赤ちゃんなんか産めるはずがないのにぃっ!!)
鬼羅人の顔面を厚みのある爆乳で挟み包み、生殖本能を剥き出しにして、巳夜子の熟胎は種付けを恋う。
「巳夜子ぉっ! はぁはぁっ……!」
(あぁ……♥︎ わたくしの名を囁いてくるっ……♥︎ 自分の嫁みたいにっ……♥︎ 粗略に尻肉を掴まれて、悦んでしまう♥︎)
「ボクの子を孕めっ‼ 龍ノ宮家の赤子を産め……! うっ……! く……うっ……! 聡次兄さんの一番大事な妻を奪ってやった……! はぁはぁ。これでっ、もうっ、巳夜子はボクだけの嫁だぞ! 絶対にっ!」
(なんて歪な劣情なのかしら……! でも、とてつもなく強い雄心を感じる……‼ 聡次さんよりも遥かに強い気持ちで、わたくしを欲しているんだわ……♥︎ あぁ、壊されてしまいそうなくらいっ! なんて強情でっ♥︎ 強引な♥︎ 夫婦の営みぃッ♥︎ 挿さった魔羅から本気度が伝わってくるっ……♥︎」
巳夜子は膣道を引き締める。
(――でもっ、まだまだお子さま……♥︎ がさつで♥︎ 荒っぽい……♥︎ 童貞を卒業したばかりのお坊ちゃんだわ……♥︎)
蠢く肉襞で魔羅を拘束し、下腹の筋肉を総動員して扱いた。
(大人ぶってるお坊ちゃんが我武者羅に魔羅を掻き混ぜてるだけ……! 若くて元気な肉体だろうと、まだ皮が剥けたばかりなのよ。……これだけ射精すれば陰嚢が音を上げるわ)
童貞を卒業したばかりの鬼羅人は堪えきれない。矮躯をぶるぶると震わせて快楽に溺れた。その間隙を逃さず、年増の美熟女は少年から主導権を奪い取る。
(小さな旦那様……♥︎ 溜まりに溜まったわたくしの肉欲を発散するっ……♥︎ 大人の本領を魅せてさしあげますわっ……♥︎)
筋力的な優位は失われ、性経験の差で巳夜子が圧倒する。
(ふふっ♥︎ 驚いてるのかしらぁ♥︎ 力みが緩んだわ♥︎ このまま一気に搾り尽くすぅっ……♥︎ 大人ぶっていても、幼さが抜けきっていないお子様だわ♥︎ あぁ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ でもぉ……♥︎ 聡次さんもわたくしとの逢瀬ではいつもこうだったかしらぁ?)
巳夜子は反芻する。赤子を拵えるため、聡次と励んだ夫婦の営み。辰彦を孕むまで、どちらかの身体に不具があるのではないかと気を揉んだ。
――だが、それはそれとして、巳夜子には性行為そのものを嗜み、肉欲に酔ってしまう淫女の気質があった。
悦楽が駆け昇る逢瀬の後半戦、聡次は巳夜子に欲求不満を抱かせつつ、眠りに落ちてしまった。聡次にとって性交は子作りであって、快楽を貪る淫交ではなかった。巳夜子は幸福ながらも、夫婦の営みで飢えを覚えていた。
悶々と燻り続ける子宮の不満感。夫の前では決して言えなかった本音。お淑やかな大和撫子の教育を受けても消し去れなかった性豪の本性。鬼羅人に盗み見られていた巳夜子の自慰は、強すぎる性欲を鎮めるために必要な行為だった。
「今夜はこの辺りで……もう……。えっ! あっ♥︎ んっ♥︎ んぅっ♥︎ 鬼羅人さんっ♥︎ んぅっ♥︎ んぁっ♥︎ うそっ♥︎ まだこんなに硬いっ♥︎ 続けたいのっ……? はふぅうんぅっ……♥︎ あぁっ♥︎」
力強い魔羅の突き上げで、巳夜子の巨尻が浮かび上がる。
(すごい……っ♥︎ 萎えかけた魔羅が息を吹き返したっ♥︎ わたくしの胎を亀頭が持ち上げるぅっ……♥︎ あぁ、くる! くるわっ♥︎ 逞しいっ♥︎ とてもっ♥︎ つよぃっ♥︎ 膣内を攻め上がってくるうぅっ♥︎)
続けざまに鬼羅人は両手で爆乳を鷲掴み、大きく垂れた乳房を上下に揺さぶった。
「当たり前だ。ボクは巳夜子が満足するまでヤるからなっ……!」
威風堂々と鬼羅人は言い放った。思いも寄らぬ亭主の宣言を聞かされ、巳夜子は唾を飲み込む。鼓動の高高鳴りが脳髄にまで響いた。
奥手だった聡次からは一度も聞けなかった漢らしい台詞。女陰から大量の愛液が漏れ出していくのが分かった。
「巳夜子に自慰なんかさせない。許さないよ。結婚した夫婦なんだから、ボクのためだけに絶頂するんだ。いい? 分かった? もっと魅せてよ。聡次兄さんや辰彦に隠してた巳夜子の本性をさ」
「はい……。旦那様がお望みでしたら……♥︎ けれど、辰彦にだけは、こんな母の姿は知られたくありませんわ♥︎ こんな破廉恥な本性だけは隠したいのォ♥︎ おぉっ♥︎ んぉっ♥︎」
巳夜子は念押しする。だが、汚濁の滲んだ嬌声で、母親の矜持は途切れてしまった。身を捩り、波打つように踊り悦ぶ。
(久しぶりだからっ……♥︎ 過敏に反応しちゃう♥︎ 食らいついてくる魔羅が愛おしいっ♥︎ 我慢できないっ! もう、もう、理性が吹き飛ぶ♥︎ あぁ♥︎ くるっ! くるぅっ! きてぇっ‼ 乱れたいっ♥︎ 狂いたいっ♥︎)
心の奥底に飼っていた淫獣としての性行為。自慰を除き、けして表層には出さなかった絶倫女の本性。死んだ聡次には、したくてもできなかった変態的な色狂いを鬼羅人なら受け入れてくれる。
「澄ました貌で常識人ぶってる変態妻めっ! 男に犯されるのを妄想して夜な夜な自慰に耽ってたんだろ!」
「あぁっ♥︎ だってぇ、夜は寂しいから……♥︎ どうしても……♥︎ そうなってしまうのォ……♥︎」
「これからはボクだけ求めるんだ」
「はいぃ♥︎ わかりひぃっっ♥︎ わかぁりましぃたわぁっ♥︎」
「巳夜子はボクが奪い娶った。聡次兄さんがしてあげられなかったことを、ボクが犯ってやるっ!!」
「はぁっ♥︎ んぁっ♥︎ ひゃっいぃっ……♥︎ 慰めてくださいっ♥︎ 旦那さまぁっ♥︎ 魔羅がっ! 魔羅がほちぃいっのぉぉお゛っ♥︎」
望んでいなかった再婚初夜、巳夜子は初めての満足を経験した。十四年前に辰彦を産み、愛しみ育てる慈母になっても、満腹にいたらなかった女の飢えが消えていく。惜し気もなく股を開き、一心不乱に巨尻を上下に振るう。
(あぁ……♥︎ あたくし……しあわせぇ……かも……♥︎ きもぢぃいっ……♥︎)
恥じらいを捨てて接吻する。
(心が……♥︎ 魂が吸い出される……っ♥︎)
唾液が滴る舌を絡み合わせて貪り吸う。清楚な妻を装っていた頃は、抑え込んでいた在りの侭を解き放った。
再婚初夜、夫婦になって最初の逢瀬だというのに、巳夜子は若い少年との性交を遂げ、喪中の未亡人から色狂いの姦婦に変貌した。
「お゛ぉっ……♥︎ ん゛ぅっ……♥︎」
かくして、戦争未亡人の子宮は恋に落ちてしまう。
◇◇◇ ~明治三十七年(一九〇四年)七月某日~ ◇◇◇
龍ノ宮家は医薬品の販売で富を築き上げた成り上がりの一族である。日本国は信州に本拠を構え、帝都東京と主要都市に商会支社を置く。
先代当主の宗衛門は晩年になると、創業家に集中していた実務を遠ざけるようになった。経営者の座を子飼いの部下達に委ねて、大株主として君臨する財閥体制の構築に注力した。
――君臨すれども関知せず。
現在、龍ノ宮家は財閥の利潤だけを吸い上げる大株主だ。大資本家の当主になった鬼羅人が一番に為さなければいけない仕事は、跡継ぎたる男子を作ること。相続した莫大な遺産は継がせる後継者がいればこそ意味を持つのだ。
鬼羅人は一刻も早く、巳夜子を孕ませなければならなかった。戦争に男子を取られた龍ノ宮家には、沢山の男児が必要だった。
「――んっ、ごくぅん」
深い苦悩と不安なを抱いた様子で、巳夜子は大粒の丸薬を三つ飲み込んだ。手のひらに残った包み紙を折り畳み、着物の帯に隠した。
(はぁ。ほんとうに……好きになれない味ですわね。『良薬は口に苦し』なんて言いますけれど、独特の苦さと、しょっぱさで舌が痺れる。……これを飲み続けなければいけない生活。うんざりしてきましたわ)
龍ノ宮家が取り扱う〈富國孕宝丸〉は婦女の妊孕性を高める新薬だ。巳夜子が鬼羅人と祝言を挙げてから半月が過ぎた。
(新薬の服用は、辰彦の治療費を龍ノ宮家に負担させる条件の一つ。わたくしは飲み続けるしかないわ。どんな手段を使ってでも守り抜くわ。戦場で散ったあの人に託されたんだから……。たった一人の息子を守る母親として。――たとえ軽蔑される外道の路を歩んでも)
正式な夫婦となった鬼羅人と巳夜子は寝食を共にしており、毎夜の子作りは一度も欠かしていない。燻っていた熟女の肉欲は、若い魔羅で解消された。
(鬼羅人……さんとの夫婦生活は思いの外、上手くいってしまっているわ。まだ義弟だったあの人を旦那様と呼ぶのは躊躇いがあるけれども……。わたくしの肉体はもう……)
巳夜子は息子を愛する慈母であり、夫を喪った悲嘆の未亡人であったが、同時に発散できない淫欲に悶え苦しむ女であった。出征した夫を想い、隠れて自慰に耽っていた日々は終わった。巳夜子の子宮は鬼羅人の魔羅に征服されている。
(子宮に精子が滞留しているのを感じてしまう。鬼羅人……さん……は本気みたい。龍ノ宮家の屋敷で働く女中達は今ごろ、噂話で盛り上がっているのかしら)
未亡人となった兄嫁が義弟と再婚する因習。ありえない歳の差婚で巳夜子と鬼羅人は結ばれた。祝言は内々にひっそりと執り行われたが、風聞は立ってしまう。
夜になれば寝室からは淫叫が漏れ出る。その声は母屋から離れた女中達の私室にも届いているかもしれない。何よりも夫婦の営みで汚れた敷布団を洗うのは女中達だ。
(夜な夜な、誰かが覗いていてもきっと気付かないでしょうね。鬼羅人さんは、わたくしの肉体を知り始めてしまった。わたくし自身も……馴染んできている感覚がある……)
巳夜子は酷使した胎を摩る。雄々しい精子を浴びせかけられ続ける子宮。ほとばしる雄の愛欲で卵巣は疼いていた。
(きっと薬の影響だわ。富國孕宝丸……。本当に……好きになれませんわ。嫌なお薬。ロシアとの戦争で兵隊さんが大勢死ぬ。男手が減る。だから、健康な子供を女に産ませるための――)
憂慮の物思いに耽っていた巳夜子は病室の前で立ち止まる。目的地に到着した。
「…………。わたくしったら……。こんな顏ではいけないわ」
口元を柔らか崩し、優し気な微笑を作る。苦悩を一切見せず、我が子を慈しむ母親でなければいけない。ここは辰彦が入院している療養所だ。
龍ノ宮家のお屋敷からは馬車で二時間ほどかかる。富裕層向けの診療施設で、大物政治家や高級将校が人目を忍んで治療に訪れるという噂だ。健康問題を大っぴらにしたくない患者が使う。
「やっぱり母様だった。馬や車輪の音で分かったよ。駐車場の砂利を踏みつける音がね。耳を澄ませば二階の病室からでもよく聞こえる。さっき鬼羅人くんと話してたんだ。母様が見舞いに来たんじゃないかって」
辰彦は痩せ細った右手で上げる。親し気な態度でベッドに座った鬼羅人は、巳夜子を視認すると他人行儀に会釈した。
「まぁ、うん。邪魔しても悪い。もう帰ろうかな。――ごめん、辰彦くん。勝負はボクの勝ち逃げだ」
そう言うや否や、鬼羅人は将棋盤の駒を両手で掻き混ぜた。
「勝ち逃げって……。優勢だったのはこっちじゃないか」
呆れ顔で辰彦は笑った。
勝利確実の勝負を流されたが、気にしている素振りはなかった。捻くれた叔父との将棋で、こんなことは日常茶飯事だ。
「飛車角を奪られてたくせに優勢?」
煽るように鬼羅人が言った。そんな挑発を気にも留めず、辰彦は半笑いの余裕を崩さない。
「持ち駒を増やしたいのは分かるけど、鬼羅人くんは取りすぎだよ。全体の盤面を見なきゃ」
「他人のモノを奪るのは好き。奪った駒は思いのままだ。人生だってそうだ。そのほうが面白いし、強いもん」
「そうかな。人生にも、将棋にも守るべき道徳がある。ちなみに、将棋では王を取ったほうが勝ちだ。持ち駒をどんなに増やそうと、王手をかけられなきゃ負けだよ?」
「辰彦くんこそ、視野を広く持つべき。盤外から玉を搔っ攫う手段もなくはない。ボクはそういう道を好むのさ」
「……?」
「分からないなら巳夜子さんに聞いてみたら? 人生経験が豊かな大人の女ならよく分かってる」
意味深な鬼羅人の発言に巳夜子は凍り付く。色欲に満ちた瞳が巳夜子の肢体に向けられていた。
辰彦には伏せられているが、鬼羅人と巳夜子は夫婦になった。この病室に揃った三人は家族だ。同い年の父親と息子、そして母親。戸籍上だけの話ではなく、巳夜子と鬼羅人の夫婦関係には生々しい実態がある。
昨日の晩も巳夜子は鬼羅人と交わり、辰彦を産み落とした穴で、魔羅から子種を搾っていた。粘つく白濁液は、今も巳夜子の膣内で蠢いているのだ。
「じゃ、ボクはその辺を散歩して家に戻るよ。またお見舞いに来るよ。それまで元気で。辰彦くん」
「ありがとう。鬼羅人くん。またね」
仲の良い叔父と甥。表面上はその関係を堅持する。だが、去り際に鬼羅人は巳夜子に近づく。辰彦の視線は窓の向こう側で広がる山々に向いている。こちら側には注意を向けていない。
「……何かしら?」
「お見舞いは早めに切り上げて。帰りは一緒の馬車で帰るから。分かった? 巳夜子」
巳夜子と鬼羅人の姦係に、 辰彦が気付かぬよう小声でやりとりする。
「旦那様。病室でその呼び方は――はぁんっ♥︎」
短い会話の最中、着物越しに尻を揉まれる。健康男児の強い握力で、臀部の柔肉を鷲掴む。
(辰彦がこっちを見ていないからって……。大胆が過ぎるわっ……♥︎)
病弱な辰彦の細腕と違って、鬼羅人の指先からは漲る精力が伝わってきた。毎夜の逢瀬で、美熟女は腰の括れを掴まれ、この少年に抱かれている。
「――続きは帰りの帰りに」
「……っ!」
ほんの一瞬ではあったが、巳夜子の表情は母親から乙女に移ろった。
大切な辰彦には何も教えない。
知られたくなかった。鬼羅人は約束を守ってくれるだろう。たった一人の親友を裏切る行為。だが、それは巳夜子にとっても同じだ。これから先、巳夜子は病弱な我が子を騙す。親子の情に背く深い業を背負うのだ。
「母様……? ひょっとして疲れてる? 具合が悪い?」
辰彦が気遣わしげに声をかける。既に鬼羅人の姿は病室になかった。巳夜子はすぐさま母親の仮面を被り、惚けた態度を慌てて隠した。
「えっ、ええ……。そうかもしれないわ。ちょっと……ね。腰が痛むの。道中の馬車が揺れたせいかしら?」
「母さんも歳だからね」
「あらあら。もうっ……。 皮肉屋なんだから。わたくしはまだ若いわよ?」
近くにあった椅子を引き寄せる。巨尻を落ち着かせて深呼吸した。誤魔化しの言い訳には僅かな真実も含まれている。夜通しの激しい性交で、巳夜子の腰は筋肉痛を患っていた。
「辰彦。最近の体調はどうかしら? 色々なことがあって気落ちしているでしょうけれど、母さんはね……。辰彦さえ生きていてくれれば、それだけで幸せよ」
「ありがとう。でも、父様が戦死したなら、ここでの治療費は……」
「大丈夫。何も心配はいらないわ。龍ノ宮家が治療費を出し続けてくれる。奥方様が確約してくださったのよ」
「僕を毛嫌いしてるお祖母様らしくない。……鬼羅人くんが手助けした?」
「どうして、そう思うの」
震えた声に混ざりかけた不安を隠す。巳夜子の心臓は緊張で高鳴っている。我が子にだけは、再婚の事実を隠し通したかった。
「鬼羅人くんが何も言わなかった。それで、何となく、ね……。どういう方法でお祖母様を説得したのか、見当もつかないや。お祖父が亡くなって、弱ってはいるのだろうけどさ」
「そうかしら? そういう風には……」
奥方の芙美は龍ノ宮家を完全に掌握し、我が世の春を謳歌している。亡くなった先代当主・宗衛門に対する情愛は薄い。巳夜子の両目にはそう見えていた。
「母様、僕はずっと入院してる。そのおかげかな。お屋敷にいないから感じることもあるんだ。色々な出来事……異変が起きている気がするんだ……。父様と叔父上が大陸で戦死してから」
生まれつき病弱な辰彦。その印象は隙間風で消えそうな蝋燭と言い表せる。だが、実年齢以上に聡い少年であった。悪癖の鬼羅人が内心では見下し、それでいながら本心から慕うたった一人の親友。不可思議な魅力があった。病室から山々の風景を眺め続ける辰彦は、龍ノ宮家の内情をまったく聞かされていない。女中達の噂も届きやしない。ありえない。
――けれども、辰彦は預言者の如く語るのだ。
「きっとね。お祖母様は良からぬ企みをしているよ。昔だったらお祖父様が止めただろうけども。周りに止めてあげられる人がいないんだ。だから、これからは気を付けて。母様」
巳夜子は罪悪感に苛まれながらも、息子からの言葉に頷いた。その警告はもう遅い。手遅れだ。
我が子の安寧と引き換えに、巳夜子は仕掛けられた淫謀に屈服した。それだけではない。己の淫欲にさえも負け、年下の少年に抱かれて、幸せを感じてしまっている。
(わたくしが母親でいられるのは辰彦の病室でだけ。この部屋を一歩でも出たら、わたくしは鬼羅人さんの妻になってしまう……)
◆ ◆ ◆
療養所からの帰路、巳夜子は鬼羅人の馬車に同乗していた。
輓馬を操る馭者は鬼羅人の専属女中。龍ノ宮家の使用人は、巳夜子と鬼羅人の婚姻関係を知っているが、この女中は身近で二人を見ている人物だ。つまり、揺れ動く車中であっても、配慮する必要が微塵もない。
「こっ、こんなところで……んぅっ……♥︎」
馬車の四輪が砂利を踏み抜き、大きく上下に揺れた。その衝撃で巳夜子は色っぽい声で呻いた。着物の裾を大胆にまくりあげ、晒し暴かれた女陰は勃起した男根で穿たれている。
「こんな田舎道、誰とも会いやしないよ。もうすぐ日暮れだ。ここらは真っ暗闇になる」
明治三十七年の時代、闇夜を照らす灯りはガスから電気へ移行期を迎えていた。といっても、それは文明開化の中心地である帝都でのお話。医療施設の療養所には電気が通っているが、道を照らす路灯は整備されていなかった。
日没が迫りくる夕暮れ時、砂利道を照らす光源は灯油ランプだけだ。曇り空で月光は陰っている。視線を遮る暗闇は車内の痴態を隠してくれるであろう。しかし、華族令嬢として育てられた巳夜子には耐え難い辱めだった。
軽装四輪の馬車は、車体の構造が人力車とほとんど同じだ。頭上は幌で覆われているが、前面は全開放で見晴らしがよい。
座席に腰を下ろした鬼羅人は、対面座位で巳夜子を抱いている。王者のようにふんぞり返り、優麗な曲線が際立つ美尻を撫でた。押し挿れた肉棒で膣奥を荒々しく刺突する。
「辰彦くんの入院費は今後も継続する。なにせボクらの息子だ。巳夜子がボクの妻である限り、最高の治療を受けられる。――夫婦なんだからお互いの約束は守ろうか」
「んっ♥︎ はぁっ♥︎ はぁはぁっ♥︎ ふぅ♥︎処方されたお薬はきちんと飲んでいますわぁ♥︎」
「富國孕宝丸。開発されたばかりの孕み薬だっていうけど、効果はいかほどだろうね。動物実験ではそこそこの効果があったらしい。巳夜子の胎ではどうかな?」
「んっ♥︎ んっ♥︎ んぁっ♥︎ 旦那様っ♥︎ 期待されてもっ♥︎ わたくしは四十二なのよ……♥︎ お薬を飲んだからって、そう簡単に稚児を授かるわけがっ……♥︎ はひぃっんぅ♥︎ いぃっ♥︎ いっ♥︎ いぃゅっ……♥︎」
「んっ、くっ! 膣が締まった。精子を欲しがってるんだろ。好きなだけ食わせてやるっ! だから、派手にイけぇっ! 巳夜子っ!!」
「あぁっ♥︎ あぁっ♥︎ イくっ♥︎ イくぅっ♥︎ イっぐぅうゅうぅぅうーー♥︎」
「はぁはぁ。ふぅ……。母親のこんな痴態は辰彦には見せられない。聡次兄さんから奪ったボクだけの妻。思いのままに動かせる」
「あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ ひぎぃっ♥︎ おぉっ……♥︎ んぉっ……♥︎ んお゛ぉっ……♥︎ 旦那様……♥︎」
「分かってる。我慢しきれなくなったんだろ。家に帰るまでボクを退屈させるな」
「はぃっ♥︎ 旦那さまっ♥︎ あっ♥︎ あぁっ♥︎ んぁっ♥︎」
主人の許しを貰った婦人は、両脚に力を込める。下半身を大きく揺さぶり、杭打ちのような大きな動作で、力いっぱいに男根を搾った。
円熟しきった子宮が、早熟の若々しい精子で満ちていく。馬車の振動に身を揺さぶられ、仰け反りかけた巳夜子の背を鬼羅人が抱き締めた。
病弱な辰彦を見舞った帰り道、歳の離れた夫婦は結合部から湧き上がる享楽を堪能する。
(あぁっ♥︎ イくぅっ♥︎ イかされちゃうっ♥︎ でも、孕みやしませんわよ♥︎ 全部っ♥︎ 無駄撃ちの子種になるっ……♥︎ お薬を飲んだってぇ、わたくしは四十路を越えた女だものぉ……♥︎ どうせ旦那様もわたくしに飽きて、別の女へと興味を移すはずっ♥︎ ――だから、それまでは妻の幸福に味わう♥︎)
性の悦楽に酔い痴れる淫女。母親の面影は消えていた。しかし、巳夜子はまだ堕落の底に降り立っていない。己の身体に生じた微細な変調にすら気付かず、下腹部で燻る火種に無自覚だった。
小っちゃく、弱々しい。今にも消えそうな焔。けれど、子宮の奥底で芽生えた生命の灯。服用していた富國孕宝丸の薬効ゆえにであるかは分からない。そうだとしても、一つだけ断言できる事実がある。巳夜子は子産みを成せる女であった。
――巳夜子の胎には鬼羅人の子が宿っていた。
◆ ◆ ◆
明治三十七年七月某日――同刻、巳夜子が馬車で淫奔に流されていた瞬間、本土を遠く離れた満州南部で日本軍とロシア軍が激突していた。
およそ三日間続く〈蓋平の戦い〉である。最前線で戦う日本軍の兵士達は優勢を確信し、安堵の雰囲気が広がっている。けれども、彼らはこの先の地獄をまだ知らない。
「お前さん、御曹司だって噂が立ってるぞ。羨ましいかぎりだぜ」
小突かれた男は溜息をつく。絡んできた戦友の手を振り払った。
「噂を撒き散らした当人が言うな。それとな、何度でも訂正するが……。俺は御曹司じゃない。妾が産んだ息子だ。正妻の義母からどんだけ憎まれてることか……。説明してやったはずだが?」
「ああ、聞いたとも。龍ノ宮の財閥なんだろ。金持ちだね。公家のご令嬢を買ったとこだ。ひと昔前だが話題になったぜ」
「そんな醜聞を知ってるお前こそ、貧農出身を装う坊ちゃんじゃないか」
「どうだかねぇ?」
「ふん。とぼけやがって……。龍ノ宮家は成金の田舎者だ。名誉欲しさに親父殿は足掻いておられるよ。諦めの悪い」
「んじゃ、長男のお前がこうして最前線にいるのも名誉のためか」
「家にとっちゃ、そうだな。……俺は息子の治療費さえ賄えれば何だっていい」
「あぁ。息子か。何歳だ?」
「十四歳だ。生まれつき身体が弱くてな。ずっと入院している。金が必要なんだ」
「成金だろうが、金はあんだろ?」
「龍ノ宮家の金じゃダメだ。自分の家族に使える金じゃなきゃ、意味がねえんだ」
望郷の念に駆られた男は東方を眺めた。海の向こう側には妻と息子がいる。家には何ら愛着は抱いていないが、妻子は何よりも大切な存在だった。
(巳夜子、辰彦……。手紙は届いているか。吉報とばかりはいかないが、俺は生き残っているぞ)
龍ノ宮家の長男にして巳夜子の夫であった男は、懐に忍ばせた御守を握りしめた。
(弟の直斗が生きていれば、俺は戦死したってよかった。あいつなら妻や息子を守ってくれる。……そう思ってた。くそ、くそ。あいつ……! 死に急ぎやがって……!)
戦地を遠く離れた龍ノ宮家で、聡次と直斗は死んだと思われている。だが、実際に命を落としたのは直斗だけだった。
(直斗が死んで、俺まで死んじまったら、家督は鬼羅人のモノになっちまう。……別にくれてやってもいいが、巳夜子や辰彦は龍ノ宮家から追い出されかねない。……経済的に困窮した紅鶴家が助けてくれる可能性は皆無だ。直斗が死んじまった今、俺は絶対に生きて日本に帰らなきゃならねえ……!)
聡次と直斗は同じ妾腹の子。一方、鬼羅人は腹違いで正妻の芙美が産んだ息子。末子でありながら鬼羅人の扱いは特別だった。
宗衛門が健在な間は、三人の息子達が争うことはない。しかし、跡目争いが起きれば、お家騒動の勃発は不可避だ。正妻の芙美は、妾が産んだ長男と次男を恨んでいた。
「――この戦争よぉ。勝てると思うか。聡次?」
「上官殿に聞かれたなら鉄拳制裁だな」
「真面目な話をしてるんだぜ。俺らは蓋平を占領し、ロシア軍を退けた。これで旅順要塞は孤立した。旅順を攻めるのは第三軍だが、俺ら第二軍だって高見の見物とはいかねえだろうよ」
「旅順要塞を攻略しても終わらんだろうな。ロシアは大国だ」
「同感だ。陸だけじゃ決着はつかねえ。海の連中次第だな」
「勝ってもらわなきゃ困る。生き残っても海を渡れなきゃ、妻と息子が待つ祖国に帰れねえ」
「勝つか負けるかを聞きたかったんだがなぁ~。まっ、勝ってもらわなきゃ困るってのは正論だぜ。戦争に勝てばたんまりと賠償金が得られる。保険にはなるぜ」
「保険だと?」
「勝ち戦だったら、御国は戦争未亡人を救ってくれる。そういう話さ」
「そうか……。ロシアに勝ちさえすれば解決する。俺が戦死しても遺された巳夜子には……。ちぃっ! 嫌になるぜ。たくっ……!」
戦場の夕闇を睨みつける。無言の聡次は瞬きをしなかった。
(考えたくはねえ。けど、最低保障にはなる。巳夜子は強い母親だ。金さえあれば、たった一人の息子を……! 必ず、辰彦を守りきってくれる……!!)
聡次が愛妻に寄せる絶大な信頼。その想いは裏切られつつあった。故郷で起きている事態は、聡次の想像が及ぶ範疇に収まっていない。
――聡次は二カ月前の鴨緑江会戦で直斗ともに戦死。それ本土で信じられている公的な記録なのだ。
夫を喪った。それが錯誤であっても、巳夜子の選択は責められないであろう。病弱な息子を守るため、龍ノ宮家の家督を相続した鬼羅人と再婚。それ以外の道は塞がれていた。
腹違いの弟に愛妻を寝取られているとも知らず、聡次は過酷な戦争に身を投じるのだ。
慰めを欲していた孤独な美女は、年若い鬼羅人の魔羅に酔い痴れ、嘆き悲しみを忘れ去り、悦楽の虜になっている。息子と同い年だった義弟に娶られ、夜毎に幸せを享受する。変わり果てる運命は必定だ。
聡次の愛妻から、鬼羅人の淫妻へ。
辰彦の愛母から、新たに宿った赤子の熟母へ。
旦那の知らぬ間に、女房は新たな主人と人生を歩み始めた。
けして後戻りはできない途。肉体関係だけならまだしも、血の混ざった子供を授かってしまった。母胎に芽吹いた赤子は龍ノ宮家の世継ぎ。鬼羅人の胤を子宮に受け入れてしまった祝言の晩、巳夜子と聡次を繋げていた夫婦の絆は断絶し、不可逆の手遅れに陥った。
聡次が書いた無事を知らせる手紙は巳夜子に届かない。巳夜子は仏壇で祈ることはあっても、死者に手紙を送ることはない。
ある意味、戦争で引き裂かれた夫妻は救われていた。
戦場の聡次は何も知らずに奮闘できる。他方、故郷の巳夜子は咎めを感じず、鬼羅人との逢瀬に励めるのだから。
昔の男が戦場で生き永らえている。その残酷な真相を知らぬまま、巳夜子は新しい男に抱かれ、龍ノ宮家の世継ぎを産む。
◇◇◇ ~明治三十七年(一九〇四年)八月某日~ ◇◇◇
鬼羅人と結ばれ、夫婦の営みが続いた。いずれの夜に子宝を授かったのか。巳夜子には知る由もない。
――だが、おそらくは早い時期に当たってしまったのだ。
よもやすると祝言を挙げた夜の逢瀬、そんな気がしてならなかった。白無垢の花嫁衣装で犯された初夏。辱められた被害者と言い訳できたなら、どんなに良かっただろうか。
巳夜子はあの夜、未亡人で居続ける孤独を恐れ、鬼羅人を受け入れた。一匹の雌となり、荒淫の奔流に自らの身体を委ねた。その真相は動かしがたい。
辰彦の治療費を龍ノ宮家に負担させる確約を得るため。そんな大義名分の下、我が子と年齢を等しくする鬼羅人と結ばれた。
少年の童貞を熟れた膣で卒業させ、褒美に意気軒高な精子を貰い受けた。
膣奥に放たれた精子は巳夜子の卵子に群がり、先陣の一匹が幾千幾億の遺伝子情報を刻み込んだ。成り上がりの龍ノ宮家、落ちぶれた紅鶴家、両家の血を受け継ぐ新たな赤子。それは紛れもなく、鬼羅人と巳夜子が愛し合った結果、生まれてくる子供なのである。
――妊娠の確信を得た時、巳夜子は驚愕し、愕然となり、唖然の心中だった。
生理が来なくなって一カ月目は、単なる周期の乱れだと思い込ませた。しかし、二カ月目になると、疑惑は徐々に現実味を帯び始める。月経は完全に止まった。閉経という可能性も僅かながらある。
縋りつく想いをさせられた。どちらの可能性を願っていたかは、巳夜子自身でも曖昧だった。けれど、他人は容赦なく告げる。
知識豊富な医師の診断、経験豊富な産婆の判断、そして悪阻の起こり。それらを以て懐妊の事実を突きつけられた。
巳夜子は龍ノ宮家の赤子を身籠った。
「――懐妊いたしました」
華やかに和装で着飾った巳夜子は奥方の芙美に報告した。夫が鬼羅人であれ、聡次であれ、龍ノ宮家に嫁入りした巳夜子とって芙美は義理の母だ。
先代当主の宗衛門が老衰で逝った後、龍ノ宮家の実権を掌握した姑である。妾の子である聡次と直斗を疎み、実子の鬼羅人を溺愛する腹黒女。龍ノ宮家の者達は芙美を奥方と呼び、敬いながらも恐れていた。
「――聞き及んでおります。で、誰の子?」
分かりきった質問を投げかけられる。
「もちろん、旦那様の子供ですわ。……私の胎には鬼羅人さんの赤ちゃんがおります」
「ふふっ。そうよねぇ。私は嫌味で言ったわけではないのよ? 巳夜子さん、お身体の調子はどうかしら」
「まだ二カ月ほどですから、見た目では分かりませんけれど、酷い悪阻に悩まされておりますの。体を成していないうちから、母を困らせる暴れん坊ですわ。きっと父親似で精力が強いのでしょう」
「初孫の誕生が待ち遠しいわね。嬉しい。とっても嬉しい」
芙美にとって血の繋がらない辰彦は他人も同然。薄情な奥方の認識によると、鬼羅人の子供だけが愛情を注げる孫だ。
「――でもね、こんなに早く授かるだなんて驚いてしまったわ」
(本音を言えば、わたくしだって……。まさかデキてしまうとは……。こんなにあっけなく、これほど……すんなりと……)
「お薬の効き目かしら? それとも鬼羅人と巳夜子さんが夜な夜な励んだ成果なのかしら。ふふっ。私の耳にも届いておりますのよ。屋敷で働く女中どころか、近所の人間や出入りしている親戚にまで噂されるくらい激しいのでしょう? ――夜がとってもお盛んだと♥︎ はしたないこと。お屋敷の布団を何枚、汚したのかしらねぇ?」
「龍ノ宮家の名を損ねてしまい、心苦しい限りですわ。以後は慎みを持ちます……」
「気にしないで。いいのよ。子宝のためなら、布団の染みくらい安いわ。健康な世継ぎを産みなさい。紅鶴家のご両親もそれで報われるでしょう」
(わたしくは紅鶴家を好きになれませんけれどね)
「先ほど祝いの電報をいただきましたわ。男子であれと、神社仏閣に百日参りをなさるんだとか。ふふっ。神仏が聞き入れてくれることを私も祈りましょう。胎の子が男児であってほしいわ」
「……わたくしも同様の想いを抱いておりますとも」
「そんな堅苦しい態度を取らないでほしいかしら。私は身内には優しいのよぉ。とっても、とっても、ねぇ。なにせ、なにせぇ、私の初孫を孕んでくれた嫁を蔑ろになんてしませんわぁ。ふふっ!」
「奥方様、辰彦に最高の治療を受けさせるお約束ですわ。必ずや、お守りください。わたくしも約束を守りましたのよ」
「ええ。布団よりは高くつくけど構わないわよ」
「…………」
「ねえ、巳夜子さん。御歳はは四十二だったかしら?」
「その通りでございますわ」
「この調子なら、巳夜子さんはまだ産めそうですわね」
「……なっ! 御冗談を……! わたくしはもう若くありませんわ。今回だって奇跡のようなことで」
「あらあら? そう? 孫が一人だけでは物寂しいわ。お腹にいる赤ん坊もきっとそう。兄弟は必要よ。鬼羅人に妾をあてがってもいいのだけれど、下賎な娼婦の血筋では……。どうせなら紅鶴家の子が望ましい。ふふっ。まだまだ期待しているわよ」
以前では考えられない、義母の友好的な歩み寄り。それは巳夜子が鬼羅人の妻になり、懐妊した結果の豹変だった。素直には受け止めきれない。けれど、辰彦の治療を続ける約束が有効な限り、巳夜子はあらゆる理不尽を我慢する覚悟だった。
――だたし、一つだけ大きな問題が発生する。
これから巳夜子の身に生じてしまう肉体変化。赤子を身籠った女はどうなるか。当然、胎が大きく膨れていく。今は目立たがないが、臨月ともなれば孕み腹は、着物の帯でも偽れなくなるだろう。
長期入院中の辰彦に対し、巳夜子は全てを隠している。
戦争で父親が死に、未亡人となった母親の妊娠。そんな事態を悟られては、秘密が秘密でなくなる。鬼羅人と再婚したことが露見する。
(あぁ、どうしましょう……。本当に。――これは不味いですわ)
◆ ◆ ◆
「いやいや……。悩む話か? それ? 腹が出てきたら、辰彦くんのお見舞いは無理だろ。諦めたら」
容赦ない正論で鬼羅人は巳夜子の相談を切り捨てた。
歳の差夫婦が暮らす離れ座敷は、母屋と渡り廊下でつながった先にある。以前は食客を住まわせていたというが、事実は宗衛門が愛人を呼ぶために作らせた建物である。裏庭に隔離された愛の巣。ここで鬼羅人と巳夜子は爛れた生活を送っている。
「たとえば……。そう! 体を隠せば……! 顔だけを見せるとか!」
「阿保」
「……」
「聞こえなかったなら、もう一度言ってやるか? 妊娠したら耳が遠くなるとは知らなかった」
「そんな言い方をなさらなくても……! わたくしは真剣に悩んでいるのですよ? 酷いですわ」
「真剣に悩んで出た答えだから、阿呆と言ったんだよ。いくら病気で弱っていても、顔だけを見せてくる母親は怪しむぞ」
「旦那様はお優しくないのですね。先ほど会ってきた奥方と言い回しが瓜二つ。さすがは親子。血のつながりを感じられますわ」
大嫌いな義母に報告を済ませてきた巳夜子は不機嫌だった。そうした感情の機微は鬼羅人にも分かるようになった。
夫婦になって二カ月足らずだが、ほぼ寝食を共に過ごし、子供まで出来てしまったら男女の絆も太くなる。頬を膨らませた巳夜子は思案する。考えを巡らせるが、妙案は浮かんでこない。
(孕み腹が目立ってきたら、手紙だけを送るしかなさそうですわ)
巳夜子は手紙が嫌いだ。戦地に赴いた聡次の死を思い起こさせる。返事がプッツリと途切れ、最後に届いたのは戦死を告げる紙切れだった。
ほんの一瞬だけ巳夜子は聡次を偲ぶ未亡人の顔付きになる。懐妊してもなお、前夫への愛情が蘇ってしまう刹那。だが、その傷心を癒す方法が巳夜子にはある。
「旦那様……」
髪結いを解き、帯の結び目に手をかけた。新聞で日露戦争の経過を読み込んでいる夫へとにじり寄る。着物で締め付けてきた爆乳が解放され、弾けるように揺れ動いた。
「旦那様……。もぅ。聞こえているのでしょう?」
繰り返し呼びかけ、新聞を取り払った。発情した巳夜子は鬼羅人を愛憎入り混じった瞳で睨めつける。上目遣いで媚びるようであり、苛立ちの八つ当たりのようでもあった。複雑怪奇な感情はとある衝動に帰結する。
ありえないと思い込んでいた懐妊。その壁を突破してしまったら、持て余した性欲は歯止めを失う。身籠ってからの巳夜子は己の意思で鬼羅人を誘うようになった。
「呆れたもんだ。辰彦くんを孕んでた時も、そうやって聡次兄さんを誘惑してたのかよ」
そう言いながらも鬼羅人が誘いを断ったことはない。折り畳んだ新聞を放り投げ、臨戦態勢の勃起男根を突き付けた。血管が脈動する魔羅を巳夜子は指先で愛でる。
「旦那様のせいですわ。ずっと抑えてた欲望をぐちゃぐちゃに掻き乱されて……。毎夜毎夜の性行為で、わたくしを淫女に貶めたのは……ほかでもない……♥︎ 疼きの責任を取っていただきますわよ♥︎」
「嫁のくせに責任転嫁か? ただ犯されたいだけの変態女のくせにっ。ボクは聡次兄さんと違って、巳夜子をちゃんと満足させられる男だ。愛してやるから股を開け」
命じられる。昔だったら強く拒絶できた。しかし、期待に胸を膨らませ、鼻息を荒くした。巳夜子は帯を捨て去り、恥部を守る最後の一枚であった肌襦袢を脱ぐ。爆乳巨尻の媚体を悦んで捧げてしまう。
「おぉっ♥︎ んぉっ……♥︎」
ぢゅぢゅぅぐぢゅり。陰毛の茂った割れ目が卑猥な水音を奏でると、あっさりと挿し込みが完了する。慣れきった様子で鬼羅人が前後に腰を揺らし始める。巳夜子の膣穴は前夫を忘れ、新夫の若々しい男根で上書きされたのだ。胎に宿った赤子が全てに勝る証明である。
(あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ おっぱいを齧られてますわっ♥︎ はしたない淫行っ♥︎ 前の夫が絶対にしてくれなかった荒々しい愛撫っ♥︎ 鬼羅人さんの妻になれたから、わたくしぃ♥︎ 満たされちゃってるんだわ♥︎)
交互に乳首を吸い上げながら、鬼羅人は巳夜子の子宮を突き上げる。育ちきってない小柄な体躯で、肥えた体格の美熟女を攻め続けた。
「あぁっ♥︎ はふっ♥︎ んぃっ♥︎ んぁっ♥︎ いいっ♥︎ すごくぅっ♥︎ いいのぉぉっ♥︎ おぉっ♥︎ きてぇっ♥︎ もとぉぉお゛ぉっ♥︎ きてぇっ♥︎ イきたいっ♥︎ イかせてぇっ♥︎ ふゅ♥︎ ふゅんぅうぅううんんんん~~~っ♥︎」
鬼羅人はお望み通りに巳夜子を絶頂に導いた。相手は四十二歳、歳の差は二十八ともなるが、魔女の如き妖艶な美貌を持つ。そして何よりも性癖に刺さるのは、この女が気に食わない長兄が愛した女であることだ。
(――身体は奪い盗った。今の巳夜子はボクを求め、ボクの子を孕んだ妻だ。けど、足りない。まだまだ足りないっ! 巳夜子の心はもっと奪える。ボクだけに笑顔を向ける愛妻に仕上げてやる!)
鬼羅人は最高の気分で射精した。兄嫁が今では自分から逢瀬をせがんでくる。葬儀で見せた悲嘆の涙は、喜悦の垂涎に移り変わった。
「はぁはぁ……ふぅ……。巳夜子の幸せな喘ぎ声が、聡次兄さんがいるあの世まで届くと良いな」
「んんぅっ♥︎ んんぅぅぅっ♥︎ そんな意地悪……言わないでぇ……♥︎」
「じゃあ、兄さんとボク、どっちの魔羅が好きか言ってみなよ。ほらっ! ほらぁっ! どっちが好きか言え! 言っちまえ! ――ボクか兄さんかを選べ!!」
「あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁっ♥︎ あ゛ぁぁあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁーー♥︎」
激しく揺さぶられた巳夜子は喘ぐ。その喘ぎ声は天にも届くほどの淫叫だった。もし聡次が天界にいたらなら妻の絶頂を耳にしたかもしれない。
「あぁっ♥︎ 選ぶっ♥︎ 選ぶからぁっ♥︎ 鬼羅人様を選びますわぁっ♥︎ これが気持ちよすぎるのぉぉっ♥︎ ごめんなさぃっ♥︎ ごめんなさぃっ♥︎ ごめんなさい♥︎ 自慰がやめられなかったのぉっ♥︎ 貴方を喪って辛かったのぉっ♥︎ 寂しさも、悲しみも、苦しみもぉ♥︎ 不安もぉっ♥︎ 病弱な息子への心配も……♥︎ イク瞬間だけは消し飛ぶのぉお゛ぉおぉ♥︎」
「はぁはぁ……。よく言えました。じゃあ、ボクと愛し合いたいんだ?」
「はぁぃっ♥︎」
「ボクを選んでくれた巳夜子は、元気な赤ちゃんを産んでくれる?」
「はぁっ♥︎ いぃっ♥︎ 産みますわ♥︎ ちゃんと産むぅ♥︎ 赤ちゃんを産みますっ♥︎ お約束いたしますわ♥︎」
「辰彦くんよりも優先する? 死んじゃった聡次兄さん捨てた。巳夜子はボクを選んだ。――子宮にいるボクらの赤ちゃんを世界一愛する母親になれ」
「ああぁっ……♥︎ あぁ……♥︎ ぁい♥︎」
「もっと大きな声で言え! 誓え!」
「ふひゃぁっ♥︎ はいっ♥︎ 八百万の神々に誓ってぇ、愛しますわぁ♥︎ お腹に宿った我が子をォ♥︎ 世界一愛する母親にぃ、なりぃますぅうっ♥︎」
「じゃあ、お腹が大きくなったら辰彦のところに行くな。お見舞いは禁止。妊婦は身体を労わらなきゃな。お前は母親なんだ。自覚を持て。分かったか。巳夜子?」
「はぁ……♥︎ ぁ……♥︎ はい……♥︎ 旦那様♥︎」
「よく言えた。褒美にボクもお前を愛してやる」
(わたくし……ついに……辰彦以外の母親になってしまったわ……。でも、もうぅ……いいですわよね……。だって、治療費は約束してもらってるんだものぉ……♥︎ 辰彦にもう母親なんていらないのよ……♥︎)
逢瀬の度、繰り返されてきた口説き堕としの集大成が実る。
(だって、わたくしの乳房を吸うのは……。旦那様との間に生まれてくる新しい子供なんだから……♥︎)
母たる巳夜子は優先順位を変更した。病弱な辰彦だけに向けられていた母性愛。それが胎に宿った赤子へと、より大きな愛を与える。
「旦那様……♥︎ お疲れなのでしょう。次は騎乗位に……♥︎ わたくしが動きますわよ♥︎」
返答を爆乳の覆いかぶさりで封じ、巳夜子は鬼羅人をすっぽりと包んだ。女体の蓋から飛び出た少年の両足がピクピクと動く。勇ましく隆起した男根が、巨尻の割れ目を穿つ。体位の攻守逆転が完了し、巳夜子が舌なめずりをした時だった。
「――あら?」
束の間、離れ屋敷は静寂に包まれた。
それを愛し合いの終わりだと早合点した女中が襖を開けてしまった。特徴的な外見で鬼羅人専属の女中だとすぐ分かった。
「取り込み中なのだけれど? さっさと出て行ってくれるわよね」
巳夜子には珍しく、トゲのある命令口調だ。苛立ちは痴態を目撃された不快感だけではない。
「大変、失礼いたしました。若奥様」
若奥様と呼ばれる年齢ではない。だが、奥方が健在なうち、巳夜子は龍ノ宮家で若奥様と呼ばれ続けるのだろう。
(間の悪い女中だわ……。まさか、わざと……? いいえ、こんなの卑しい勘繰りですわ)
襖が静かに閉まる。女中は足音を立てずに去っていった。
「巳夜子が怒ったのは嫉妬? それとも邪魔されたってだけ?」
「やはり旦那様は……」
巳夜子は勘付いていた。ここ最近、巳夜子の妊娠が明らかになってからのことだ。龍ノ宮家で働く若い女中のうち、何人が妙な態度を取り始めた。鬼羅人専属の女中である彼女は顕著だった。
「乳房の大きい娘ばかり……。本当におっぱいが好きご様子。わたくしを上回るのは、あの女中だけなのかしら?」
「乳を比べてみる?」
「愛人を好きなれない奥方様のお気持ち。分かった気がしますわね」
「手を出したのは巳夜子が孕んだ後だ。そうじゃないと張り合ってくれないじゃん」
「あの女中……。わたくしへの当て馬ですのね……」
嫉妬を煽り、巳夜子の気持ちを推し量る。再婚させられたばかりの二カ月前なら、嫉妬の炎は燃え上がらなかった。だが、今となっては巳夜子も旦那の妾を意識していまう。
「大正解。巳夜子が本気を出し続けられるように。ボクって気遣える主人だろ」
「左様でございますね。もちろん、わたくしは大人の女ですから、若い娘を恋敵だなんて感じません。……けれど、一滴残さず搾り取りますわよ。あっ♥︎ んん♥︎ あぁんんっ♥︎」
「めっちゃ嫉妬してるじゃん」
「しておりませんわっ♥︎ ――ん゛ぅっ♥︎」
巳夜子は言葉で否定する。だが、分かっていた。女中を妬む浅ましい自分。それは要するに鬼羅人を本気で愛し始めた予兆に他ならない。
(――あぁ♥︎ あぁっ♥︎ 私は薄情で卑しい女ですわ♥︎ あんなに悲しんでいたのにっ♥︎ あんなに愛していたのに♥︎ 鬼羅人さんに抱かれて、もっと幸せを感じているっ♥︎)
ほんの二カ月。傷心で弱っていた未亡人だった事実を加味しても短い期間。巳夜子は鬼羅人に惚れている。
(辰彦のためじゃないっ♥︎ お薬のせいじゃないっ♥︎ 妊娠したせいでもないっ♥︎ 御家なんかどうでもいいっ♥︎ そんなことじゃ、いまのわたくしの気持ちに説明がつかない♥︎ あぁっ♥︎ あぁあぁっ♥︎ 貪ってしまう♥︎ 自慰の数百倍の快感っ♥︎ やっぱりぃ♥︎ わたくしと鬼羅人さんは――肉体の相性が最高すぎるのだわっ♥︎)
巳夜子は巨尻を降り落した。勢いで汗粒が飛び散る。肉厚な膣襞がざわめき、挿入された魔羅から精液を吸い上げる。既に子を宿した胎が白濁液で膨れていった。
(わたくしの肉体が望む♥︎ 求めて♥︎ 欲して♥︎ 願っているのだわ♥︎ 偽れないほどに強くぅっ♥︎ ――私はもう一度、赤ちゃんを産みたいっ♥︎ 元気で健康な子供を愛したいぃっ♥︎)
孤立無援な戦争未亡人として生きるのは辛い。
病弱な辰彦を心から慈しんではいたが、十四年に及ぶ心労は筆舌尽くしがたい。聡次さえ生きてさえいれば乗り越えられた。だが、独りではとても耐えきれない。
新しい男に乗り換えた背徳。しかし、独り身に戻った巳夜子の選択を誰が批判できるだろう。生きていくための決断だ。事実、長期入院患者の辰彦を救う苦渋の選択だ。それもまた事実だ。
巳夜子の誤算は聡次の生存を知らぬことだけ。
夫婦の残酷な答え合わせは、まだまだ先の出来事である。日露戦争の終結はおよそ一年後。その刻、巳夜子は乳飲み子を抱いている。
◇◇◇ ~明治三十八年(一九〇五年)三月二十八日~ ◇◇◇
龍ノ宮家の凶事と祝事が同日に起きた。
闘病生活を送っていた辰彦が落命した。十五歳の誕生日を迎える前にこの世を去った。
最愛の息子を失って数時間後、巳夜子は新しい愛息を産んだ。元気な男児の産声が上がり、再び子持ちの母親に返り咲き、その悦びを甘受する。産湯で洗われたばかりの新生児を抱きしめると母性の愛情が湧きだす。出産による肉体的疲労は残っているが、拍子抜けしてしまう安産だった。若かりし十四年前よりも遥かに楽な出産だった。
「はぁ……」
栄養を欲する赤子に乳首をしゃぶらせる。
まだ両目が閉じているのに、歯すら生えていないのに、我が子は力強く母乳を吸う。
(――父親にそっくりですわね)
右の乳房は生まれたばかりの息子に与え、左の乳房は鬼羅人に与える。父親と息子が競うように母乳を吸う。
(辰彦……。今だったら私を見せてあげられるわ。お見舞いに行けなくてごめんなさい。死に目すら顔を見せてあげられなかった。でも、それは辰彦を愛していたからなのよ。それだけは信じて。こんな姿になった母さんを見たら、きっと、傷つけてしまう……)
真っ白な面布で顔を覆った亡骸に心から詫びる。妊娠が隠せない身体になってから、巳夜子は一度も辰彦と会わなかった。手紙のやり取りは欠かさなかったが、鬼羅人との関係や妊娠の事実は隠し通した。
(辰彦に先立たれるのは分かっていたわ。ねえ、見てちょうだい。これが貴方の弟よ。わたくしと、鬼羅人さんの、可愛い赤ちゃん。母さんは男の子を産んだのよ。こんな卑しい母親で――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい。――ごめんなさい)
感情が暴発した母親は号泣する。遺体の前で懺悔を繰り返した。
「私は独りが恐ろしかった。男を欲してしまったのよ……。弱い女だから……。抱かれている間は不安を忘れることができた。あぁっ♥︎ んっ♥︎ あっ♥︎ んぁっ……♥︎ あぅっ……♥︎」
巳夜子は母乳を吸っていた鬼羅人が乳首を噛んだ。新生児との飲み比べを終える。
「ふぅっ。美味しかった。……死んじゃった辰彦くんに見せてあげるよ。巳夜子が聡次兄さんの妻だった頃よりも幸せだってことをね。ボクの魔羅をしゃぶれ。いつもやってるだろ。巳夜子」
「はぃ……♥︎ よろこんでぇ♥︎ いただきますわぁ♥︎ んぢゅっ♥︎ んぢゅっぢゅうぅううぅんっ~~♥︎」
巳夜子は授乳中の赤子を抱いたまま、鬼羅人が亀頭を咥えた。艶のある長髪を撫でられながら口淫奉仕を敢行する。
「巳夜子はボクの妻だ。今日からは辰彦くんの母親じゃない。ボクの息子を巳夜子が産んでくれた。宗魔と名付けた。龍ノ宮家の世継ぎは鬼の字を名前に含める習わしだ。世継ぎを産んでくれた巳夜子の立場も安泰。――もちろん二人目も作る。次は娘でもいいかな。んんっ……! ふぅっ、くっ……!」
「んぎゅぅっ♥︎ んん! んぅ! んぢゅ! ん゛ぢゅうぅぅぅうっ……んぅ……ぉ……♥︎」
「見てみなよ。巳夜子の幸せな顔。ボクじゃないと満足できない淫女め。これが巳夜子の本性なんだ。辰彦くんが死んで悲しんでいても、ボクの魔羅を味わったら幸福になってしまう。精飲が大好きな変態女」
「あ゛ぁっ……♥︎ ん゛うぅうんぉっ……♥︎ ん゛おぉァ~~♥︎」
「一滴残らず飲め。息子達が見ているんだ」
「――ごっぐゅんぅ♥︎」
巳夜子は喉を鳴らして精飲する。
死んだ息子の前で。
乳房を吸う息子の前で。
咥え込んだ魔羅を慈しんだ。
子産みを済ませたばかりの子宮が疼いた。
(あぁ……。きっと。わたくし……。まだぁ……。――産めますわ♥︎)
◆ ◆ ◆
二カ月後の五月二十八日、日本海海戦において大日本帝国の連合艦隊はロシア帝国のバルチック艦隊を圧倒、日露戦争の勝敗を決定づけた。そして九月五日、講和条約が結ばれると日本兵の復員が始まる。
――過酷な戦場を生き延びた聡次が故郷に帰ってくる。
そして、淫惨な現実を直視するのだ。
妻であった巳夜子が見知らぬ赤子を母乳を与えている姿。慈しみ深い愛母の顏で、腹を痛めて産んだ我が子を抱擁する。その上、さらなる絶望が突きつけられる。
子供を産んだ巳夜子は四十三歳になった。子育てに追われながらも、鬼羅人との逢瀬は欠かさなかった。三度、その胎に新たな命を授かる。巳夜子は――まだ産める。
それを知ってしまった聡次は――。

