4夜 羞恥と自白(♡)

 シルヴィア・ローレライは真っ白な部屋で目を覚ました。

 その部屋は正四角形の壁・床・天井で囲まれていた。明かりはシルヴィアの頭上にある円形の結晶灯だ。たった一つの明かりが部屋全体を照らしていた。

「ここは………?」

 手足が動かない。四肢は革ベルトで椅子に固定されていた。

 シルヴィアが座らされている椅子は、普通のものとは構造が違った。検診を受ける妊婦が座る分娩台ぶんべんだいに似ている拘束椅子だった。普通の分娩台と違うのは、座っている人間の身動きを封じる器具が取り付けてあることだ。

 両手は肘掛けに括り付けられ、両脚の足首が左右に縛り付けられている。強制開脚の姿勢で固定されているせいで、股を閉じることができない。

 四肢の自由を奪う革製の拘束具は外せそうにない。自由に動かせるのは首だけだ。

「ちょっ! え!? 私なんで裸なの!?」

 シルヴィアは警備兵の革鎧と制服を脱がされていた。それどころか恥部を覆い隠す下着すら身に付けていない。裸ののシルヴィアはオマンコを晒す姿勢で拘束椅子に座らされていた。

 丸出しとなった恥部を隠そうにも手は肘掛けから動かせない。抜け出そうと上半身をくねらせるが、豊満なオッパイが揺れるだけで拘束は緩まない。

 本来なら真っ先に隠さなければならない女陰に至っては開脚しているので、陰唇から膣口まで丸見えとなっている。何とかしようと股を閉じようとするが、どうにもならなかった。

 とてもじゃないがシルヴィアの力では拘束椅子から抜け出せない。

 この拘束椅子は、わざと胸や陰部を晒す構造になっている。失禁してもいいように、尻の部分は穴が空いている。椅子の前に立てばシルヴィアの尻穴すら観察することができてしまう。

(最悪……! これが夢じゃなかったら、羞恥心で死にたくなるわ)

 シルヴィアが座っている拘束椅子は、素人が急造したものではなさそうだ。素人目であるが、あまりに完成度が高い。拷問官が使っていると言われても納得できてしまう。

 シルヴィアは警備兵の研修で、これと似たようなものを国立博物館で見たような気がした。博物に展示されていたのは、拷問を受ける囚人の血が滲みこんでいるような恐ろしげなものであった。

 今シルヴィアが座っている拘束椅子は、幸いなことに座り心地は良かった。晒し者になっているのは嫌だが、体勢はそれほどきつくない。

 医療用の分娩台を改良したものなのだろう。改良とは言うものの、シルヴィアにとっては改悪だ。しかし、本物の拷問台と違って棘があるだとか、以前に座っていた人間の血がベットリと付着していたりしないのが救いではある。

「これって、本当にどういう状況なの……? なんで私、こんな目に遭ってるのよ……!」

 シルヴィアは意識を失う前の出来事を思い出そうとする。

(私は娼婦の連続失踪事件を調査していて……、ペタロ地区で聞き込みをしてた。それで、確かルキディスって人が住んでる家にやってきて、それから……、それから……?)

 シルヴィアは、目線を下げて腹部を見る。晒されている自分の陰部も見ることになるので嫌になる。だが、彼女は腹部に強烈な一撃をくらって気絶したのを思い出した。

(この臭いって香水? いや、たぶん違う。この臭いは医療院でよく嗅ぐ臭い。もしかして消毒液……?)

 自分の身体と拘束椅子から、アルコール消毒液の臭いがした。聞き込みで1日中歩いたというのに、シルヴィアの肉体からは汗の臭いがしない。誰かが体を綺麗に洗浄してくれたようだ。

「なんだっていうのよ。もう……。誰か! いないの!?」

 こんな拘束椅子がまともな用途で使われているはずがない。

 ここが医療院の病室ということはありえないだろう。この部屋には窓どころか扉すらない。夢の中の世界と言われたほうが納得できる場所であるし、自分の状況から考えても夢であってほしい。しかし、現実感があるので夢ではない。

「――お目覚めですか?」

 前方にある白い壁が歪む。壁の向こう側から、見覚えのあるメイドがやってきた。

「貴方はシェリオンさん……?」

 牛の角が生えた獣人のメイドは微笑む。

 気を失った時の情景が蘇った。シルヴィアはこのメイドに拳を叩き込まれて、失神させられたのだ。

「少々お待ち下さい。ご主人様は食事を終えたらこちらに来られます」

 シェリオンは台車を拘束椅子に横付けする。押してきた台車の上には、不気味な液体が入った薬瓶や恐ろしげな注射などが置かれてる。拘束椅子に座らされて動けないシルヴィアにとって、精神的によろしくない器具もあった。

「これはどういうことなんですか!? シェリオンさん!?」

「名誉なことです。シルヴィアはとても運が良い。ご主人様に選ばれたのですからね」

 理解できない答えが返ってきた。けれど、はぐらかしている感じではない。

「私が選ばれた……?」

「はい。貴方には機会が与えられます。私と同じようになれるかは資質次第です。私は応援していますよ」

「ちゃんと説明してください! 私に何をする気なんですか!?」

 ちょうどその時、シェリオンが入ってきた白い壁の向こうから、ルキディスとユファがやってきた。

 この真っ白な部屋には扉というものがない。壁の一部分がすり抜けることができ、そこを通って出入りできるからだ。

「おはよう。シルヴィア・ローレライ。元気そうでなによりだ。その椅子での寝心地はどうだったかな? 人体構造上、快適に過ごせるように設計してあるが、個人差があるらしくてな。今までに座った女からの評判はかんばしくない」

 ルキディスは半笑いでシルヴィアに語りかける。家で応対していたときの好青年の姿であるが、口調から邪心が漏れ出していた。

 シルヴィアは全てを理解した。眼前にいるこの男こそ、娼婦を行方不明にしていた元凶であり、シェリオンとユファはこの悪漢の手先だと。

「最悪に決まってるじゃない! ド変態!!」

「ニャハハハハ! 格好は君のほうが変態ニャ! どんな格好をしてるか鏡で見せてあげたいニャ! オマンコを晒しながら凄まれたら、笑っちゃうニャ! ニャハハハハ! ニャハ!」

 ユファは大笑いする。それも無理はない。シルヴィアは隠すべき恥部を異性のルキディスに晒しているのだ。
 ルキディスの視点からは女の穴が丸見えになっている。処女膜まで確認できた。この格好ではどんな悪態をつこうと滑稽に見えてしまう。

「貴様は気絶してから1日眠っていた。眠っている間に衣類はこちらで処分しておいた。悪いが返すことはできない。しばらくはその格好で我慢してくれ」

「……ふん! 好きなようにすればいいわ。でも、私に手を出したのは失敗だったわね。私がいなくなれば、貴方は絶対に疑われる。警備兵は貴方達を捕まえるわ!」

「ご心配なく。処分したのは下着だ。貴様の代わりに警備兵の装備一式は返却しておいた。辞表も出しておいたよ。色々と言われたが貴様の上司は物分りがいい。最後は辞表を受け取ってくれた。辞めようとする部下を引き止めようとする良い上司だったぞ。普段の勤務態度が評価されていたというのもあるかもしれないがな」

「へえ……。貴方、嘘が上手いのね」

「嘘吐き呼ばわりとは失礼な女だ。俺はちゃんと『ブライアン上級警備兵』に会ってきたぞ。俺は嘘を言っていない」

 シルヴィアは動揺を隠す。しかし、沈黙してしまった。

『ブライアン上級警備兵』はシルヴィアの上司だ。ルキディスが知っているはずのない名前が出てきた。そのことにシルヴィアの心は揺らいでしまう。

「誰も貴様を探しに来ない。そもそも警備兵では見つけることができない場所だ。この部屋は俺の家の地下にある。地下室を異空間化させて、作り出した〈次元領域〉だ。通常の方法で、この部屋に入ることはできない。逆も同じだ。貴様は俺の許可なく、ここから出ることはできない」

「どうして、こんなことをしているのよ」

「聞きたいことがある。まずは、警備兵団がどこまで掴んでいるのかだ。大したことは分かっていないのだろうが、捜査される側としては気になって夜も眠れない。娼婦が14人消えたことはもう把握しているようだな。足取りの捜査はどこまで進んでいる? 捜査している警備兵は本当に貴様だけなのか? ぜひ教えてくれ、シルヴィア・ローレライ」

 シルヴィアは顔を背ける。

「教えるはずがないでしょう。貴方みたいな犯罪者は絶対に捕まるわ」

「俺だって貴様が素直に喋るとは思っていない」

 ルキディスは、シェリオンが運んできた台車の上に乗っている器具を手に取る。得体の知れない薬液を調合して、シルヴィアに何かをするつもりのようだ。

(こんな男の玩具になるくらいなら、死んだほうがましよ……!)

 ここから自力で脱出することは不可能だ。

 この先、明るい未来は訪れないだろう。それなら舌を噛み千切って死んでしまったほうがいい。どうせ殺されるのなら、自分で自分を殺すことをシルヴィアは選んだ。

 シルヴィアは前歯で舌を挟む。だが、力を入れることができなかった。

「…………?」

 死に対する恐怖心で躊躇ちゅうちょしているわけではない。

 本気で噛もうとしているのに、なぜか力が出ない。噛み切るどころか、舌を甘噛あまがみしているだけだ。舌を出して間抜け面で混乱しているシルヴィア。ユファはそれを指差しながら大笑いしている。

「ニャハハハハ! 自殺しようとしたって無駄ニャ。その椅子には、座ってる人間の自傷行為を防止する呪いがかかってるニャ。舌を噛み切ろうとしても、間抜けな格好で、間抜け面を晒すだけニャ! 面白いからやってもいいけど、何をどうしたって無駄無駄なのニャ〜!」

「悪趣味が極まってるわね……。いいわ。何でもすればいいじゃない。それでどんな拷問をしてくれるわけ? 指の爪を全部剥がすの? 歯を一本ずつ抜いていくとか? それとも眼球を熱した針で突き刺すのかしら? こんな椅子を用意しているくらいだから、さぞかし凄い拷問で私を甚振いたぶるんでしょうね」

「それは期待ではなく皮肉だろうな? 拷問官がやるようなことはしないぞ……? 俺は猟奇殺人犯というわけじゃない。必要ならそういう残酷なこともするが、必要でないなら相手を苦しませるようなことはしない。人間をなぶり殺すのに、俺は価値を見出していない。貴様だって、そんなことはされたくないだろ?」

 ルキディスは「何を言ってるんだこの女?」という顔でシルヴィアに言い返した。

「案外……。まともな返答ね。意外だったわ」

 ルキディスの返答がまともすぎたので、シルヴィアは自分のほうが恥ずかしくなってしまった。

「サピナ小王国の話を貴様に聞かせただろう。俺はあの国を牛耳っていた王族や貴族より正気ということだ。人間の中には魔物よりも魔物に相応しい心を持っている奴がいる。どういう育ちや生まれ方をすれば、ああなってしまうんだろうな。自分の同胞を拷問して楽しいものかな……。狂った人間がしでかす悪行と愚行は理解不能だ」

「じゃあ、狂ってない貴方は私にこれから何をしてくれるのかしら?」

「期待外れで悪いが、自白剤を投与するだけだ。投与するときに少し痛いかもしれないが、薬の効果で苦しむことはない。興奮してお喋りになる薬だ。心配することはないぞ。ちょっとした副作用はあるがな」

 ルキディスは先端に細いチューブが付いた注射器を、シェリオンに手渡した。針らしきものは付いていない。注射器は半透明で、中に濃い青色の薬液が詰められていた。

「――シルヴィア。力を抜いてください」

 注射器を持ったシェリオンは、看護婦のようだった。

 シルヴィアは観念して腕の力を抜く。自白剤の効力がどれほどのものかは分からないが、絶対に喋ってやらないという気構えを固めた。

「シルヴィア。力を抜くのは腕じゃなくて、お尻のほうニャ……。
 シェリオンの持ってる注射器をよく見るニャ。針の付いてない坐薬ざやく用の注射器ニャ。血管を刺すなんてできないニャ」

「ぇ!? ざ、坐薬……!?」

 ユファが言った通りであった。シェリオンの持ってる注射器には鉄の針が付いていない。注射器の先端に付いているのは、半透明の細いゴムチューブだ。

「嘘でしょ。そっちから本当に挿れるの……? 口とかじゃ駄目……?」

「口から入れたら効き目が薄い。普通の人間なら吐き出そうとする。血管から入れるのは効きすぎるし、拒絶反応が起こった時が大変だ。効きやすく、いざという時は腸を洗浄してしまえばいいから、肛門から入れるのが適切だ。悪意はないぞ。自白剤を入れる時は、誰が相手でもそうしてきた」

 注入するのが同性であるシェリオンというのは、ある種の配慮なのかもしれない。

 シルヴィアの菊門にチューブの先が添えられる。抵抗したところで、無理やり挿れられるだけだ。それなら助言通り力を抜いて、坐薬を受け入れたほうが賢明である。しかし、得体の知れない薬を挿れられるのは不安でならない。

「…………はぅうっ!?」

 シルヴィアの尻穴をこじ開け、チューブが直腸に侵入する。潤滑性の薬が塗られているので、門を潜ってしまえば抵抗なくチューブを挿し込めることができた。

「あっ! ぁあっ! ひぎぃ! んぁあああああっ!!」

 青い薬液がシルヴィアの直腸を満たしていく。この薬液はルキディスが調合した特別製の自白剤である。この薬剤の素晴らしい点は、自白している最中の記憶が吹っ飛んでしまうことだ。

 投与された人間は、自分が何を喋ったのか覚えていない。質問に対して従順に答えてくれるようになる。ただし、個人差はある。

 特別な訓練を受けた人間だと質問に答えないことがあった。しかし、シルヴィアは一般の警備兵でしかなく、自白剤に対する抗体を持っていないし、耐える訓練だって受けていない。

 軍部の諜報員でない一般の警備兵が、自白剤に耐えられるはずがないのだ。こればかりは気力であるとか、気構えでどうにかできる代物ではない。

「まず年齢から聞くとしようか。シルヴィア・ローレライ。貴様は今年で幾つになる?」

「――じゅ、じゅうはち」

 虚ろな瞳でシルヴィアは答えた。意識は混濁こんだくしている。幻覚と現実の狭間はざまで、薬液による恍惚こうこつがシルヴィアの理性を排除してしまっているのだ。

「よし。いい子だ。シルヴィア。次の質問だ。家族はいるか?」

 ルキディスはゆっくりと質問していく。

 質問をしている最中、シェリオンとユファは補助を行う。自白剤の効果で意識が混濁しているシルヴィアは副作用に襲われていた。

 シルヴィアの口からは唾液が垂れ流れていく。両目からは涙が溢れ出し、頬を伝って流れ落ちていった。

 自白剤の副作用は、体液の異常分泌いじょうぶんぴつであった。唾液や涙だけなら拭いてしまえばいいが、下半身から漏れてくる体液は対処が難しい。

 尿道に管を差し込んで、小便が飛散らないようにする。特にこの薬を使うと膣から愛液が出てくる。床を汚さないように鉄の容器を設置しておく。たとえ肛門から汚物が溢れ出たとしても、これで対応ができる。

 水分不足に陥らないように、食塩水を飲ませて水分補給をさせてやる必要もある。シェリオンとユファはテキパキと作業をこなしていく。

 あらゆる体液を垂れ流しているシルヴィアは、秘密すらも漏らしてしまう。年齢から家族構成、警備兵団での仕事や職場の環境、聞き込みで得た情報、あらゆる情報を素直に暴露していった。

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