ゼンプロダクツは2月6日、同社が提供するAI校正サービス「Shodo(ショドー)」に小説の校正・表記のチェック機能を実装した。無料アカウントでも小説向けの校正機能を利用できるが、校正ルールの設定や変更には有料プランが必要となる。
ShodoはAIによる文章の校正をブラウザーや「Word」「Google Docs」等で利用できるWebサービス。「AI校正機能」「表記ゆれ」の対応とあわせて、Web小説の執筆に関わる時間や手間、ストレスを削減することで本来集中したい執筆に注力できるよう開発されている。

小説向けの校正機能では、「!」の後ろに全角スペースを追加する、「!!」など2つの感嘆符を半角にする、「…」と「―」を偶数回にする。このほか、Web小説サイトのルビおよび傍点表記、小説のセリフのような特徴的な文を誤字脱字と見なさない処理が行われる。
また、個別のルールについて細かく設定が可能だ。感嘆符2つは全角のままにしたいなど、好みのスタイルにあわせて調整できる。
三紋昨夏の個人的レビュー
Web小説作家がいつも抱え込む問題とは? そう、誤字脱字と文法の誤りです。
AIによる校正は年々、進歩しておりますが、まだまだ発展途上です。ちなみに自分はさまざまな執筆ツールを使ってきました。一太郎、Word、Googleドキュメント、TATEditor、Nola、Typoless(タイポレス)、そして今回のShodo(ショドー)。
校正機能としてはATOKのクラウド、Wordの標準機能、Googleドキュメントのツール機能、Nola、Typoless(タイポレス)、Shodo(ショドー)を使ったことがあります。主に小説執筆以外での用途でしたが⋯⋯。
Shodo(ショドー)をレビューする前に、他のツールとの比較を述べようと思います。
まず、ATOKが提供する有料の「ATOKクラウドチェッカー」ですが、創作活動では使い物になりません。行政文書や堅苦しい記事を書きたい人くらいしかオススメしないです。アップデートがされていないようで、ちょっと時代遅れな品質になっています。
次に「Wordの標準機能」ですが、これはそこそこちゃんとしてます。なぜそこに指摘が入るのだろう?と謎なこともありますが、明らかな誤字脱字は言い当ててくれます。
Googleドキュメントのツール機能もなかなかに優秀ですが、カタカナの人名を直したがったり、小説でよく使われる記号表現を修正したがったりと、余計な指摘が多い。ただし、誤字脱字機能はとても優秀でした。
Typoless(タイポレス)は朝日新聞が提供しているAI校正サービスです。これも優秀ではありますが、用途が記事やプレスリリースなど、明らかにビジネスユーザー向け。小説執筆以外でならこれもオススメできます。
Nola 小説家専用エディタツールは、ウェブ小説家向けのサービスということもあり、愛用している執筆ツールです。ユーザーに寄り添っているので、今後も機能改善は進んでいくと思いますが、校正機能はオマケ程度です。WordやGoogleドキュメントには一歩及ばない。「て・に・を・は」の文法間違いを指摘してくれますが、たまに過剰に反応しちゃうことがあります。
私の創作活動は、Nolaで執筆→Googleドキュメントで校正→再読→ウェブ掲載(後は読者指摘を待つ!)という感じです。ちなみに1話あたり3~10個くらい間違いの指摘がきますね。どうなってるんでしょうね。私の日本語能力は⋯⋯?
Shodoの実力はいかほど? ビジネス感覚の抜けない校正指摘
私の悲惨な言語能力はさておき、Shodoはフリーライター界隈で有名なツールです。私自身も評判を聞き、一時期仕事で使っていましたが「経費を使ってまで使う必要ないな」と止めてました。便利ではあるけれど、必須ではない。ビズネスだとこういうのは削られてしまうのですよね。
趣味で使う小説執筆の実用度はどうか?
さっそく有料版に戻して小説の原稿をぶっこんでみました。ここで大きな問題となるのは「ビジネスツール」と「小説執筆ツール」は、用途がまったく違うことです。
たとえば職場で「お前」「貴様」「吾輩」なんて言葉は使いませんよね(使う人もいるかもしれませんが)。その一方、小説では頻出する表現です。口調を変えるのはキャラ付けの典型的な技法です。ビジネスツールだと「お前」「貴様」「吾輩」は不適切な表現だとして校正の対象になります。
フリーライターなど、ビジネスツール向けの利用が多かったShodoもそうした問題を抱えていました。しかし、今回の小説向けのリリースを行ったことで、執筆ツールとしての実用性が高まりました。ルビの記号なども誤字脱字とは指摘されなくなっています。
ただし、やはりビジネスツール。搭載されたAIのお節介な指摘は残っています。たとえば「令嬢」という言葉。AI校正は「おすすめしない表現」だとして「娘」を使えと言ってきます。「伯爵家の令嬢」と「伯爵家の娘」、意味は同じですが小説なら前者を使いたくなりますよね。読者に「このキャラはお嬢様だよ!」と伝えるためには、そうするべきだと思っています。


「下男」「下女」といった表現もお嫌いらしく、「お手伝いさん」とすべきらしいです。他にも「給仕」は「接客係」、「オマンコ」は「女性器」など丁寧な表現にしろと指摘が入ります。
身分や職業差別に関するワードは禁止ワードとされているわけです。たしかにビジネスでは大事です。悪意がなくても「その言葉を使うな」というのはありますからね。
何を隠そう、私も職場で噴き出した事件があります。「大人向け玩具」と聞いて、何を想像します? 絶対にエロいですよね? でも、実際は違うんです。「キダルト」という大人もターゲットにした玩具のことです。日本語訳すると「成人向け玩具」なわけで間違ってはいませんが、ネットだとアウトです。「大人」+「玩具」のワードを文中で組み合わせるなと指示しました。AI校正の良いところは、そういう不適切な指摘を事前にしてくれるところです。
しかし、小説創作においては不適切な表現、乱暴な言葉づかい、古めかしい言い回し、職業や出身への差別や侮蔑がストーリー上発生することがあります。フィクションですから悪業や乱暴が許容されるわけです。
Shodoはまだまだビジネス感覚が抜けておらず、小説執筆との相性が最適化されていません。
ルビ記号 技術的な問題
ルビ機能を誤字脱字と指摘しなくなったのは、大きな前進であり、進歩です。しかしながら、ルビの記号で文節を区切ってしまうため、正しい文書を誤っていると指摘する問題が生じていました。

正しい表現は「癇に障る」です。「癇に触る」ではありません。ところが、構成機能が「触る」に変えるべきだと指摘してきました。
なぜだろうと調べてみたところ、ルビを付けない文章では指摘が入りません。ルビの記号があるため、校正機能は「●●に障ったシャーロット」と解析してしまったせいです。もし●●が物体なら、確かに「触る」が正解です。ルビ記号のせいで前の単語を読み取れなくなっているのでしょう。
小説執筆ツールとして総評 最適解には程遠い
有料版であれば単語帳を作って「表現のゆれ」を正したり、さまざまな活用法があると思います。しかし、はっきり言いましょう。
時間をかけて丁寧な文章を作るより、更新頻度を高めたほうが絶対にいいです。紙に刷って、同人誌を売り出すのなら、日本語チェッカーとして使い道があるかもしれません。
今後、望む改善点としては小説校正では「おすすめしない表現」を撤廃することです。
公共放送の原稿を書いてるわけじゃないので、言葉遣いが丁寧であれば良いわけじゃありません。5000文字の原稿を入れたところ40箇所の指摘がありましたが、本当に直すべき誤字脱字は1~2箇所。小説執筆で使うための最適化が現段階では不十分というのが、総評です。